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ALS患者高野元の日常と思考と回想

ラジカット体験記(2):第1クール

   

6月末にALS治療薬として認可された、ラジカットの投与を始めました。

ラジカットは点滴投与する薬剤で、28日を1クールとして、そのうち14日間が投与期間となっています。「ラジカット体験記(1)」に書いたとおり、第1クールは必ず専門医の所属する医療施設で投与することになっています。

私も入院して投与を受けたので、今回はその経緯を書いておきます。

主治医との相談開始

自費でラジカット投与を受けている患者が一定数いるという話を聞いて、告知後に主治医に試せないか相談したこともありました。未承認薬の投与には消極的で、私も前にすすめるほどの意欲はありませんでした。

しかし、6月末に「ラジカットが薬事承認された」と言うニュースを目にしたあとに、主治医の定期診察を受ける予定が入っていました。

診察の中でラジカットを試したい旨を伝えると、「認可されたばかりなので、受け入れ体制を作れるか検討する時間が欲しい」ということになりました。

その一ヶ月後の診察で、「いろいろリスクはありますが、その理解の上であればやりましょう」という回答をいただきました。

また、診察当日呼吸機能検査を行い、呼吸機能がある程度保たれていることを確認しました。肺活量が、発症初期から80%以上に保たれていることが一つの基準となっているためです。

「なにもしないことが最大の人生リスク」がモットーの私としては、田辺三菱製薬の製品説明にざっと目を通して、リスクは引き受け可能な範囲と判断していたので、前向きに進めてくれた主治医に感謝しました。

とはいえ大病院なので、病床が空き次第入院ということで、数日連絡を待ったのちに入院することになりました。

入院時の私の状況

なるべく客観的な情報になるように、ALS重症度分類とALSFRS-Rの自己評価を載せておきます。

ALS重症度分類

各体肢の筋肉,咽頭部の明らかな運動障害があり、体幹の筋肉,舌,の機能低下があり、日常生活の多くに介助必要な状態なので、重症度は2度から3度へ移行している段階。

ラジカットの効果があったとされる、治験の条件である重症度1-2を越えかけているギリギリのラインと判断。

ALSFRS-R

項番 項目 評価 点数
1.
言語
言語以外の伝達方法を併用
1
2.
唾液
正常
4
3.
嚥下
時々むせる
3
4.
書字
遅く拙劣だが判読できる
3
5.
(胃瘻なし)食事用具の使い方
フォーク・スプーンは使えるが,箸は使えない
2
6.
着衣と身の回りの動作
時々介助あるいは工夫を要する
2
7.
病床での動作
独りで寝返ったり,寝具を整えられるが非常に苦労する
2
8.
歩行
補助歩行
2
9.
階段をのぼる
介助を要する
1
10.  呼吸困難
ない
4
11.  起坐呼吸 ない 4
12.
呼吸不全
ない 4
合計 48点中 32点

そのほかの状態

今年の2月頃から慢性的な咳込みに悩まされていました。ちょうど入院前に引いた風邪の後遺症で咳がひどくなり、訪問医師に出してもらった喘息の頓服に使う気管支拡張剤を使っていました。

また、首の筋力が落ち始めていて、頭の重さを支えるのが精一杯になり始めていたり、衰えた右腕の分まで頑張っていた左腕もだんだんと上がりにくくなり始めていました。

右手の手のひらや指が、筋肉痛というか萎縮の影響なのか、動かすと軽い痛みがありむくんでいました。

あとは、長い人生でほとんど経験しなかった便秘に悩まされるようになっていました。

ラジカット投与の経過

入院開始日からいきなり投与というわけにはならず、まずは血液検査です。投与前の血中成分、血中酸素濃度を確認する目的です。

その後2日おいて投与を開始しました。

ラジカット30mlバッグを二つ投与しますが、初日は慎重すぎて2時間ほどかかりました。その後は、だいたい一時間半程度で安定しました。

二週間毎日点滴針を刺したら、刺せる場所がなくなるかと心配しましたが、いまはカテーテルを一旦刺したら刺しっぱなしなんですね。カテーテルは一週間で交換だったので、点滴で針を刺したのは2箇所ですみました。

投与一週間後と、投与終了後に血液検査がありました。腎機能・肝機能の低下がないか確認するためですが、私は特に問題がなかったので投与継続となりました。

ラジカットとは直接の関連はありませんが、入院ついでに、9日目の夜に睡眠時の呼吸機能検査も行いました。まだ、ぎりぎり正常の範囲ということでした。

投与期間の変化

体温や発汗、嫌悪感といったわかりやすい体調の変化は特にありませんでしたが、最初の二日は緊張感のためか投与後に眠くなりました。

三日目から気分的には落ち着き、生活リズムも通常に戻りました。また、右手の手のひらと指の痛みが軽くなり、むくみが引いたように見えました。

投与から七日目頃から咳がおさまり、そのせいか会話が多少できるようになりました。

それ以降の投与期間中は、目に見える変化は特にありませんでした。

投与後の変化

投与中に明らかな変化がなくても、投与をやめると出てくる変化も意味があるかもしれません。

そういう点では、入院前と同じように首が疲れやすくなったと感じたのと、言葉が出にくくなったように感じたのが投与後の変化です。

変化に対する考察

こうした変化をできるだけ投薬のせいだと思うのが人情ですが、あえてそうではない視点で考察してみます。

  • 咳が止まった
    これは気管支拡張剤が効いたと考えるのが自然です。
  • 右手のむくみが消えた
    入院生活は活動量が下がるので、筋力が落ちた右手の負担が軽くなったと考えることができます。
  • 首の疲れや発話のしにくさが減った
    投与後に多少の低下を感じたのですが、普段からその日の体調に影響を受けるので、プラセボ効果の範囲なのかもしれません。

入院のデメリット

あえて変化の項には書かなかったことですが、入院による体力低下がADL(activities of daily living 日常生活動作)の低下を招くのが大きなデメリットです。

病院は転倒などの事故を防がないとならないので、どうしても安全サイドに振ったケアになります。

自宅だと数m手すりを伝ってトイレにいくのに、病院では十数mを車いすで移動します。もちろんリハビリメニューが組まれますが、日常生活より確実に運動量が落ち、脚力がてきめんに低下しました。

退院後に家の階段が登れるか、家の中でトイレに行けるかとても心配でしたが、一週間ほどでなんとか回復しました。

もう一つのデメリットは、病院食です。標準カロリーの嚥下食だったため、カロリー不足で体重が4キロ近く減りました。体重を減らすなと指導されているALS患者にとって、体重減少はできるだけ抑えたいのです。

入院途中でこの問題に気づき、毎日高タンパクの弁当を差し入れしてもらいましたが、それがなければもっと減っていたかもしれません。

退院後に、お菓子や間食を含めて、必死で食べて体重回復に努めています。そうしているうちに、便秘はほぼ収まっています。

費用負担について

ラジカットは薬事承認を受けたことによって、難病法に基づく特定医療費助成の対象となりました。

私は前年まで仕事をして一定の収入があったため、現在の自己負担上限は毎月2万円です。しかし、入院前の9月に身体障害者手帳2級と認定されたため、川崎市の重度障害者医療助成事業の対象となり、医療費の自己負担分は全額還付されるようになりました。

つまり、今回の入院と投与は全額公的支援で負担されています。

薬事承認される以前は、自費で投与する患者さんもいると聞いていました。ただでさえ経済的に苦しくなる患者家族にとっては、自己負担が大きく軽減されるのはありがたいことです。

一方で、国家財政と地方財政の問題が気になります。赤字の原因は歳入不足と歳出過多で、医療費の削減は喫緊の課題です。難病患者にとっては命綱といえる公的支援をどう維持し、本当に必要な支援は何なのか、考えざるを得ません。

第2クールに向けた準備

入院での投与は、運動量の減少でADLの低下を招くので、何のためのラジカット投与かわからなくなる側面があります。

したがって、第2クール以降は、なんとしても在宅投与に切り替えたいと思っていました。

しかし主治医は、「訪問医との引き継ぎをしっかりやらないと第2クールも入院で投与」と、理解はできるが回避したいことを言ってきました。

結局、病院側の努力で、地域ケアチーム(訪問医、訪問看護師、訪問リハ)を交えてカンファレンスを開催してくれました。これで無事引き継ぎができたので、第2クールからは在宅で点滴できることになりました。

おわりに

ラジカットの第1クール投与の経緯を紹介しました。

正直なところ明確な効果は感じません。製品情報にも記載があるように、半年でようやく有意な効果が見られるものなので、明確に体感できる変化は感じないと考えるのが自然です。

ただ前向きに捉えると、症状の進行と合わせてやってきた対処に、なんらかの影響を及ぼした可能性はあります。

すでに第2クールの投与が始まっているので、次回はその状況を書きますが、他の患者さんたちがどのような状態で投与を受けて、どのように感じているか聞いてみたいところです。もっと情報がほしいですね。

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