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ALS患者高野元の日常と思考と回想

宇宙兄弟(27)とTDP-43タンパク質

   

先週末の11月20日に発売された「宇宙兄弟」第27巻を読みました。

なんで宇宙兄弟?と思われるかもしれませんが、現在もっともALSの啓蒙に力を持っているメディアじゃないかと思っています。というのも、主人公の六太と日々人に宇宙へのあこがれを抱かせたシャロン博士、六太の宇宙飛行士仲間のせりかの父親、がALS患者という設定なのです。

彼らにまつわるストーリーのはしばしに、ALS患者が置かれる現実が現れているだけでなく、日本のALS最先端患者関係者がそのまま登場していたりもします(何人かはご本人とお会いしているので、登場シーンではご本人に脳内変換されてます笑)。

ネタバレしないように詳細は省きますが、この27巻はせりかにまつわる悪意のネット風評とその対処に焦点があたっていて、その内容に賛否両論があるようです。

一方、多くのALS患者が気になると思われるのは、そして私自身が注目したのは、無重力実験でTDP-43タンパク質を扱っているところです。せりかさんは、お父さんの命を奪ったALSの創薬を実現するために、宇宙での実験を提案して宇宙飛行士になったという設定です。

ALS患者の運動神経近傍にTDP-43タンパク質の異常凝集が見られることは10年以上前に発見されていて、それが遺伝子の正常なコピーを阻害することがこの一年あまりの間に各研究機関で発見されています。

宇宙兄弟の話に戻ると、そんな運動神経の破壊を阻害する要因を取り除く薬を、宇宙ステーションの実験で生み出そうとするストーリーは実に夢があると思うんですよ。こんな風に、夢のある実験で創薬されるといいなあ。

とFacebookのウォールにつぶやいたら、JAXAの方からコメントを頂き、タンパク質の結晶化実験は実際に行われていることだと教えて頂きました。

http://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/first/protein/

 

どうやら、タンパク質の解析を行うには高純度の結晶を得ることが望ましく、そのためには無重力環境での作業が望ましいということのようです。

宇宙兄弟、最先端の医学研究と宇宙研究の組み合わせでストーリーができているんですね。人気の秘密は、こうした考察力にもあるのでしょう。

創薬を期待するALS患者の立場からすると、日々発信される研究成果が創薬に至る全体像のどこに位置するのかをわかりやすく提示して欲しいといつも思います。

私は、TDP-43蛋白の凝集がALSの根本原因とは思わないし、ほかにも怪しいタンパク質があるようです。さらにその先には、今の医学が解明していない生命システムのバグがあると考えるのが自然だと思っています。

うーん、でもバグと捉えるのは人間のエゴで、創造主の立場では「それは仕様なのじゃ」であって、人間がそこからも学べということなのかもしれません。

もしTDP-43タンパク質の分子構造が解明されて、そこから創薬につながればいいのですが、現在の研究段階は実験手法の実証をしていると見るのが良さそうです。

現実にはそのまえに、先日に慶応大学から発表のあったような(iPSで神経難病を再現 慶大、細胞「作り分け」手法開発)、ALS患者のiPS細胞から神経細胞を培養して、かたっぱしから既存の薬剤を試す手順になると予想しています。このために必要な実験環境は整備されつつあるのかを知りたいところですね。

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