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ALS患者高野元の日常と思考と回想

気管切開と誤嚥防止手術を受けました(4) ~入院時の課題と対応

   

この5月12日から6月16日までの一か月余り、気管切開と誤嚥防止手術を受けるために入院して来ました。

今回の手術は、ALS患者にとっての大きなイベントである気管切開を行うものだったのと、いくつかのトピックスを含むものになったので、複数回に分けて詳細に書き残しておきます。

 入院は好きじゃない

これまで何度も入院してきましたが、いずれもできるだけ短期間になるように、都度主治医にお願いしてきました。ある意味わがままな患者なんですが、さすがに今回は5週間くらいという予定を受け入れました。

入院期間が短いほうがいいのは、体力が落ちるというか体の機能が落ちると感じるからでした。また、コミュニケーションの制約もあり、ストレスがたまることもあります。いずれも、自分の状態に最適化してきた在宅療養にくらべて、入院時はどうしてもリスク回避の対応となるからです。

特に気にしていたのが、①ずっとベッドで過ごすことによる体力の低下、②過度に食べやすい食事による嚥下機能の低下、③しゃべれないことによる小さな我慢の積み重ねのストレス、でした。

こうした課題にどのように対応したのかを書いておきます。

体力低下への対応

これまでの療養生活を通じて、体力や筋力の維持のためには少しでも自分の意志で動いて、神経を刺激して筋肉に血を流すことが大切と意識してきました。自宅では、3食ベッドからソファに移って移動しますし、ポータブルトイレへの移譲などは一瞬でも立位をとることができます。

入院すると、どうしてもこうした日常動作が減ってしまいます。なので、リハビリメニューを作るときに要望を伝えます。特にお願いするのは、立位をとることです。もちろん自分一人では立てないので、体を支えてもらいます。今回は、30秒を3セットにしてもらいました。このほかに、股関節のストレッチと、上肢のストレッチをやってもらいました。

医療保険点数が足りないのでは?と心配になるほどのメニューを組んでくれたのですが、今回は手術があったからできたのかもしれません。

○食事の対応

嚥下障害の患者は、むせこみをいかに回避するか、という観点からトロミ剤を勧められます。これは、誤嚥性肺炎のリスクを避けるためのもので、入院時には半ば強制されます。しかし、トロミ剤はまずい。しかも、のどに張り付くので気持ち悪い。なので、最近はずっとトロミ剤を拒否してきました。拒否できないときは、食事自体をしなかったこともありました。

その分、誤嚥を回避する食べ方や飲み方を工夫してきたわけで、それが一つのリハビリになっていたと思います。

今回は誤嚥防止手術をしたので、もうトロミ剤を入れる入れないでの協議はなくなり、ミキサー食ではありますが食べることが嚥下機能のリハビリになっていきました。

○コミュニケーションの対応

さて、しゃべれなくなった患者にとって、入院生活の最大の難関はコミュニケーションです。ナースコールは押せても、用件を伝えられなければ看護師も困ってしまいます。これまでは、込み入った要件でもスマホに入力して伝えていましたが、もうスマホを操作できません。

今回は、あらかじめ必要そうな要件を紙に書いてベッドわきに貼り、必要に応じて更新することから始めました。要件に番号を振り、番号を読み上げてもらい、該当番号で瞬きで合図することで用件を伝えます。この方法はうまくいきましたが、書いてない要件をどう伝えることが課題となりました。

しかし、この病棟の看護師は、全員が文字盤や口文字が使えました。もちろん基本的なもので、そのレベルには個人差がありますし、熟練した家族やヘルパーには及びませんが、こうしたコミュニケーションを当然のように使ってくれました。多くは、あ・か・さ・た・な、と子音を選び、その後にさ・し・す・せ・そ、と母音を選ぶ方法です。何人かは、視線を読み取る方法をマスターしてくれました。

繰り返しますが、病棟看護師全員です。これってすごいことだと思いませんか?うれしくて、ICT救助隊監修の文字盤マニュアルを進呈しました。

おかげで紙の更新はやめてしまいました。看護師の作業効率を考えると更新したほうがよかったのですが、直接話したほうが楽しいじゃないですか。

病院との関係づくりの考え方

こうした対策をとるにあたり、自分なりに考えて行動してきたことが役に立ったなと思っています。

告知を受けてから、神経難病で有名な病院でセカンドオピニオンを受けました。いずれ、胃ろうや気管切開が必要になると聞きましたが、その手術はその病院ではしないことも分かりました。進行に合わせていろいろ情報取集するうちに、入院時のコミュニケーショントラブルや、その対策としてヘルパーが入院に付き添える制度の法制化が進んでいることを知りました。

こうした情報から考えたのは、

  • どこの病院に行っても治らないなら、医療的ケアをまとめて受けられる今の総合病院(私の場合は、聖マリアンナ医大病院)に面倒見てもらう。家からも近いし。
  • 機能的に不足する部分は、他の病院を活用する(リハビリの指導は、国立精神神経研究センター病院から受けている。またロボットスーツHALを使ったリハビリを受けるために、国立病院機構新潟病院にも入院歴がある)。
  • いずれ入院時コミュニケーションが問題になるなら、それまでの入院で看護師との人間関係を築いておけばいい。

というものでした。

結局、告知を受けてからの入院はすべて同じ病棟になっていて、看護師とも顔見知りになりました。彼らの一部は、少しはしゃべれたころ、食事は自分でしていたころ、自分で立てたころから、だんだんできなくなっていく私を見ています。私もたとえば、新人看護師が一人前になる様子も見てきたわけです。おそらく、こうした背景があるのとないのとでは、コミュニケーションの質が変わってくるでしょう。

もう一つ気を付けてきたことがあります。退院時にお礼の手紙を書くようにしてきました。理由は簡単で、受け持ち看護師は毎日変わるので、退院時に全員にあいさつできないからです。こうした例はあまりないようで、好意的に受け止めてもらっているようでした。

コミュニケーションで文字盤を使うことについては、前々回の入院では影もなく、前回の入院で若い看護師が挑戦してくれた程度でした。それが今回全員対応になっていたのは、組織で何らかの意思決定があったのだろうと想像しますが、入院患者としてはラッキーの一言に尽きます。

そのほかにも、ポータブルトイレの持ち込み、自動痰吸引器アモレの持ち込み、視線入力装置付きパソコンの持ち込みと、看護師曰く「最先端機器」の設置や利用にも協力してもらえました。とても感謝しています。

いずれ、ほとんど体が動かない状態で入院する日が来るでしょう。できることを考えて、その時に備えたいと思います。

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