【香川講演】社会人としてこれから大切になること 〜 前編
4月の終わりに、縁あって香川大学MBAにて前職のベンチャー企業役員の経験を講演したのですが、更に知人の会社での講演を頼まれました。何を話そうか悩んだすえ、掲題の内容でお話をしました。これまで考え続けてきたことなのですが、外部に発信する機会がありませんでしたので、講演メモを再編集して紹介することにします。
1. はじめに
これからは数多くの社会問題に直面する時代に入ります。ざっと思いつくだけでも、下記のようなものが挙げられます。
- 少子高齢化がすすみ、人口構造が歪む。この変化への対応が遅れるため、税収の2倍使う赤字の国家予算が続く。
- 返済不可能な累積債務(国債残高)がさらに膨らみ、デフォルトのリスクが高まる。
- 社会の規範と言ってよかった高学歴・大企業神話が崩壊し、多くの中高年が生きる指針を見失う。
- いじめ・他責体質の増長が進み、創造・挑戦を厭わないチャレンジする人がスポイルされる。
- 都市化が進み、さらにそれらの都市は国際競争に巻き込まれるため、よりストレスフルな環境となる。
- 地方が生き残りをかけて国内競争を繰り広げることとなり、人材の獲得競争が生まれる。
ほかにも日本には数多くの課題がありますが、最大の問題は「一人ひとりが課題から目を背けて、これに向き合わないこと」ではないかと考えています。
とはいえ、一つ一つが個人には重すぎる課題ですから、向き合えといっても難しいのも事実です。
そういう環境にあっても、大切なことは「一人ひとりが主体的に仕事をする=主体的に生きていく」ことであり、これがさまざまな問題解決につながると考えています。
2. 主体的に仕事をする
それでは、主体的に仕事をするとはどういうことでしょうか?
仕事は他人に与えられるもので、決められたタスクをひたすらこなすものだと思っていないでしょうか?
高度経済成長下のように、社会が高度に効率を追求した時代は、たしかにそうでしょう。社会の効率化には、頭の良い誰かがトップダウンで計画し、現場はそれに従う方法が有効だからです。
しかし、現在のように大きく変化する時代ではどうでしょうか? 多様な価値観の中で何をすればうまくいくかわからない環境では、トップダウン方式は大きく外れるか、小さく当たるかのどちらかです。ニーズが細分化されるので、大きく仕掛けたとしても、当たりの規模が小さいのです。そうなると、大きく失敗しないためには細分化されたニーズに細かく当たるしかありませんので、トップダウンではなくてボトムアップの方がうまく行くことになりそうです。
こうした環境で一人ひとりが成果を出すには、次の3つのことが重要だと考えています。
- 内発的動機に向き合う。
- 目標は自分で考えて決めて、最後まで自分でやりぬいてみる。
- 自分を知り強みをつくる。
それぞれ、もう少し説明していきます。
2.1. 内発的動機に向きあう
そもそも何をやったら当たるかがわからないので、やりたい人がやりたいことをやるのが確率的に成果を最大化できそうです。
ボトムアップでことに当たるということは、自ら責任をもって仕事をすることを意味します。その場合は、誰かの命令ではなくて自分の心にある動機によったほうがいいと思いませんか?
TEDの人気講演の一つに「モチベーションに関する驚きの科学」というものがあります。数々のベストセラー本を書いているダニエル・ピンクさんの講演です。
これによると、
- 金銭などの外部から与えられたモチベーションは、ある程度までの成果しか望めない。
- 自らやってみようとすることでモチベーションを得ることが、クリエイティブな成果を出すために必要。
ということなのです。
自分が責任をもってボトムアップでことに当たるということは、だれよりもそのことに対してクリエイティブでなければなりません。クリエイティビティは外部からの報酬では最大化されないのです。人が最もクリエイティブになれるのは、自分が心の底からやりたいと思うことです。すこしでも自分の心と向き合って、自分がやりたいことを見つけたいものです。
このとき、限られた経験の中から本当にやりたいことを見つけられるかどうかを考えてみましょう。人間は経験した範囲でしか考えられない生き物ですから、経験が多様なほどやりたいことが見つかるのではないかと思います。ですから、少しでも経験を増やす努力をすべきですね。長時間残業による自己研鑚の時間が乏しいこと、女性の働く機会が乏しいことは、この点からも早急に改善すべき課題です。
2.2. 目標は自分で考えて決めて、最後まで自分でやりぬいてみる
さて、自分がやりたいことが見つかったとして、それをどのように形にしていけばいいかを考えてみましょう。普通は、具体的な目標を設定して、そこにたどり着くための計画をたてると思います。
しかし、もしその具体的な目標が自分にとって未知の分野だとすると、計画を考えるときに何が起きるでしょうか?
数々の課題が思い浮かび、その一つ一つの解決が難しいものに思えてきます。なぜなら、それらは未知の経験であり、うまくいく確率よりも失敗する確率が高いように感じられるからです。悩んだらやる習慣にしないと、新しいことへの挑戦回数が減ってしまいます。
さて、悩んだらやる習慣にすると当然のように失敗します。そうなると、大切なことは失敗への対処法を学ぶことです。私は、経験的に次の3つが大切だと考えて来ました。
- うまくいかない理由をできるだけ消すように、事前に準備をする。
- 悪い兆候から目をそらさず、失敗に気づいたら素早く軌道修正する。
- 周りに迷惑をかけたときは、誠意を持って対応する。
やってみなければわからない、という「言い訳」を振りかざして突進するのは感心しません。未知であっても事前に準備できることはたくさんあります。例えば孫正義さんは7割の可能性が見えた時点で決断してGOといってます。逆に言うと、7割の確信が持てるまでは準備しないといけないということですね。
失敗に気づくというのも、事前の準備が必要です。軌道修正や撤退の基準を決めて、これを超えたら行動することにしないと、いつまでもズルズルと続けて傷口を拡げます。人間は間違いは認めたくないものなので、悪い兆候には目をつぶってしまったり、頑張ったからもう少しだけ続けたら良くなるかもという期待にかけたり、と根拠のなく自分を騙してしまいます。傷が浅いうちは再起できますが、痛手が大きいと再挑戦できなくなります。擦り傷切り傷のうちに、現実を見つめて手当しないといけません。
そこまでしても大怪我をしてしまうこともあります。そんな時は素直に助けを求めるしかありません。一人では収束させられないことでも、人の助けがあれば何とかなります。そして、助けてくれた人には、後日誠実にお礼をしなければなりません。後始末は、自分で責任をもって最後までやることが将来の信用をつくります。「最後まで逃げない人」と思ってもらえるかどうか、が再起動するときに助けてもらえるかの分かれ道になります。
2.3 自分を知り、強みをつくる
自分の強みとは何でしょうか。強みを自覚することで強みは作れるのでしょうか?
私はそうは思いません。自分の強みは、最初は自分ではわからないと思います。なぜなら、すでに述べたように、人間は経験の範囲でしかものごとを考えられないからです。たとえば就活本で示されている人物像は、他人の人気投票であって、自分の経験とリンクしていなければ意味がありません。人気投票に合わせて強みをつくろうとしても、動機が不純なので卓越できずに弱みが目立つだけになってしまいます。
就活本に書かれていることに触発されてやってみるならいいでしょう。やってみて、はじめて自分の心の声に気づきます。やらないと気付けない。
こう言うと、野球のイチロー選手とかサッカーの本田圭佑選手は自分で決めていったという方がいるかもしれません。
彼らは、自分で自分の道を決めて、その中で厳しい経験を積むことで強みを見つけて、そこを磨いていったと思うのです。
好きなことにには、知らず知らずに時間を使っているものです。そして、好きなことは、失敗を恐れずに向上しようとするものです。スポーツでも芸術でもビジネスでも、一流の人は自然に自分の決めた道に没頭していると言います。その中でやるべきことを見つけて意思を持って磨き続けたから強みになるのです。
後編に続く