気管切開と誤嚥防止手術を受けました(2) ~術後の経過と誤嚥防止術の成果
この5月12日から6月16日までの一か月余り、気管切開と誤嚥防止手術を受けるために入院して来ました。
今回の手術は、ALS患者にとっての大きなイベントである気管切開を行うものだったのと、いくつかのトピックスを含むものになったので、複数回に分けて詳細に書き残しておきます。
(前回の記事)気管切開と誤嚥防止手術を受けました(1) ~食べ続けるために早期の気管切開を決断
入院から手術まで
何度もお世話になっている神経内科病棟に入院しました。入院日は金曜だったのですが、 採血した後は土日放置で(笑)月曜日に術式の最終説明と承諾書にサイン、という流れでした。全身麻酔なので、一応最低限の遺言を妻に伝えて、後は翌日の手術に備えました。
手術当日もさほどの緊張はなく淡々と手術室に入り、執刀医とヘルプにいらしたこの手術の経験が豊富な他病院の先生と挨拶をして、麻酔を吸ってからの記憶は当然ありません。3時間ほどの手術だったと聞きました。
声門閉鎖術は、のどぼとけの上を切り開いて、声帯の左右に切り込みを入れて3層に縫合する術式です。同時にのどぼとけの下に気管口を開ける手術も行いました。開けないと呼吸できませんからね。
麻酔が切れて朦朧としているところを起こされるのですが、若いころに経験した自然気胸の手術よりはずっと楽な感じがしました。そのまま三日ほど集中治療室?で過ごしたあと、神経内科病棟に戻りました。
術後の経過
術後一週間で血抜き用のドレーンが取れ、胃ろうからの経管栄養が始まり、順調に回復していましたが、37度後半の微熱が続いて抗生物質の点滴が終わるまで2週間必要でした。その後、切開口の状態もよくなったことから、気管カニューレを挿入しました。このあたりの気管系の話は次回に書きます。
術後2週目が過ぎたところで、造影剤を使った飲水試験、摂食試験を行い、無事に縫合ができていることが確認されました。その後、ミキサー食とおかゆですが、 経口の食事も始まりました。
食事が始まれば当然排泄も始まります。これまで座って用を足してきたので、それを希望しましたが、いろいろ問題があったので、自宅で使っているポータブルトイレを持ち込んで対応しました。
食事はどの程度改善したのか?
さて、今回の手術の目的の一つは、食事をむせずにできるようになることです。誤嚥防止手術をしたのですから、食べ物や水分が気管に入ってむせることはないはずです。
食事再開当初は、呑み込みがしやすい姿勢が変わってしまい戸惑いがありました。手術前は、むせを防ぐために下向きのまま飲み込んでいましたが、上を向かないと食道に送り込みにくくなりました。これまでの苦しかった経験が下向きの飲み込みとなっていたわけで、上向き姿勢に変えるのはなかなか勇気がいりました。でも、食べやすい(呑み込みやすい)ミキサー食だったこともあり、食事の飲み込みは比較的すぐ慣れました。
ただ一つ問題が残りました。食べたものを飲み込んだ時、どうしてもその一部が気管のほうに流れてしまいます。もちろん声帯のあたりで止まるので誤嚥はしませんが、流入を阻止しようとむせこんでしまいます(咽頭反射というらしい)。むせても咳はできませんから、いつまでもそこに残り続けて苦しくなります。
この問題は、のどに残りやすいおかゆを食べたら、続いて飲み込みやすいミキサーしたおかずで流し込むという方法で回避できることがわかりました。反射は気合では回避できないので、こうした工夫で付き合っていくしかないようです。
水分は取れるようになったのか?
次は水分です。手術前は、少量を口に含んで下を向いたままのどに送り込むような飲み方をしていました。顔を上げてしまうと、全部気管に入ってしまったので、水分はほとんど口からとれなくなっていました。
手術後は誤嚥の心配がないので、顔を上げて飲んで、のどを通してゴックンとしたいわけです。ハードルは二つ。自分の勇気と、介助者の勇気です。なんでこの手術をしたのかと自分に言い聞かせ、少しでも顔を上げてお茶を飲むようにしましたが、最初の数日はなかなかうまくいきませんでした。
食事介助してくれる看護助手さんたちも大変です。そもそも、嚥下障害のある患者が湯飲みから直接お茶を飲むなんて常識はずれで、医師に怒られちゃうんですから。しかし、そうならない手術をしたこと、医師も公認であることがわかると、恐る恐る協力してくれました。
食事が始まって少し経つと、朝食に牛乳が付くようになりました。牛乳はちょっと粘度があって比較的飲みやすいので、「これを飲み切るのを目指そう」と目標設定しました。これは一種のリハビリなので、目標設定が大切です。
介助者との相性もありますが、すぐに飲み切れるようになり自信が付きました。そうなるとほかにも試したくなり、みそ汁やお茶はもちろん、売店でジュースを買ってもらって試したりしました。飲み込みや口を閉じる機能が落ちているので、どうしても口から洩れてしまいますが、それでも口から好きなものが好きなだけ飲めるようになったのは大きな進歩です。進歩はおかしいな、改善ですね。
今回の誤嚥防止術について
正直なところ、今回の声門閉鎖術がどの程度自分に合っているのか、他の術式と比較できないのでわかりません。でも確実に言えるのは、食事中に誤嚥を心配しなくてよくなったこと、水分が口からとれるようになったことです。細かい不便はありますが、対策を考えて付き合っていけばよいのです。
誤嚥防止という目的は十分達成したかなと考えています。
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