中国の現状と今後に関する考察

大連生活,起業・経営

先日、独立系FA(Financial Adviser)をやっている友人のR君と会って色々と教えてもらっていたのですが、その時に中国の現状に関する話になりました。普段は頭の中で何となく考えていることでも、他人と話すと明確になることがあります。今回はちょうどそんな感じだったので、忘れないうちに書いておこうと思います。
彼は、仕事がら投資商品はグローバルで見ており、興味のある国には直接行って目で見て確かめるスタイルなので、話は面白いし説得力があります。
当然中国のことも研究しているのですが、現状は「賃金上昇がリスクだと思っており、特に一度上昇してしまった賃金の固定化が国際競争力を削ぐことを懸念している」ため、投資は絞っているということでした。
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確かに工場でのストライキによる賃金引き上げは日本でもニュースになっていますが、二つの事実をお話しさせてもらいました。
まず、沿岸都市部が急激に豊かになっており物価上昇も続いていることから、ブルーカラーである工場労働者(ほとんどが内陸部の出身者)の賃金の低さは不当なレベルに到達してしまった、ということです。今年の7月に主要都市で最低賃金を平均で20%引き上げていますが、これでも寮で住居と食事が保証されないと自分の身の回りのものを買うのが精一杯で、不満がたまるのは当然です。20年前にコストメリットを追及して日本企業が進出したときは、投資側と労働者側はwin-winの関係だったのに、経済成長によりすでにwin-loseの関係になってしまっています。
次に、ITをはじめとするホワイトカラーに関しては、商品やサービスにより高い付加価値をつけないと、競争が激化している顧客の要求に応えられなくなっており、高いスキルを持つ限られた人材を高給で奪い合う現象が起きていることをお話ししました。
いずれも人件費が上がり続けることを意味するのでR君の懸念は正しく、中国国内で経営を続けて行くにはそれに見合う売上を作って行くしかありません。しかし、中国が現在の経済問題を克服してさらに発展したときに、何も手を打っていないリスクもあるのではないか?という観点から、今後の中国での可能性について以下のような話をさせてもらいました。
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これまでの世界の工場としての位置づけでは、これ以上の経済発展が望めないことがわかっています。このため、今年3月の全国人民代表大会では、2010年の政策として8つのポイントが挙げられていますが、私の視点でまとめると次の二つが大きなポイントになります。
・外需獲得による発展から、内需拡大による発展へのシフト(上記ニュースのb)c))
・低価格低コスト生産による競争優位から、研究開発による高付加価値創造へのシフト(上記ニュースのd))
前者は、外資の投資に依存していた経済発展を、国内需要の拡大に置き換えようというものです。現状はGDPの4割は外国からの投資が生み出しているそうですが、この比率を下げて行く具体的な目標設定がされているはずです。こちらは、沿岸部の各都市がバブルで金あまりなので、そのお金を政策で地方に還元することであるていど弾みをつけることができます。すでに、内陸部の田舎でも液晶テレビが買えるように政府から補助金が出て(家電下郷)、家電業界は売上を大きく伸ばしました。これからも、こうした政策は積極的に実施されると想定されます。
後者は、価値創造による製品の国際競争力の獲得を意味します。安さだけでなく、品質やデザインあるいは差別化機能も自ら作り出そうとしています。先端産業の歴史が浅いため、人材育成に時間がかかるはずと思っていましたが、すでに民間レベルでは人材を国外から調達することでこの問題にも対処が始まっています。たとえば検索サービスの百度がシリコンバレーで求人をしたり、ディスプレイ生産企業が日本や韓国のエンジニアを積極的に採用しているという話を聞いています。
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しかし、中国の経済成長の懸念事項として、バブル経済の崩壊と、沿岸部と内陸部の経済格差に起因する内政不安が指摘されます。
外国からの投資・売上を人民元に換金するために大量の人民元を刷っています。このような状態では通常はインフレになるのですが、内陸部の経済水準が低くモノを安く供給出来る余地があるため、まだ抑えられています。この結果として、沿岸部では金余りがヒドくなり、以前の日本と同じ様に不動産投資に向かってしまいます。実際、北京市の財政の3分の2は不動産取引によるものだそうです。
このような沿岸部でだぶついたお金が、開発が遅れている内陸部への投資に回るかどうかが、インフレとバブル崩壊をコントロールできるかどうかのポイントだと考えています。これがうまく機能すると、内陸部の生活水準も上がり、内需拡大と言う政策方針で成果が出るため、経済成長の懸念はかなり解消されることになります。ただ、この路線に乗るまでは、沿岸部の景気を支える海外からの投資は必要なので、いまは人民元レートを切り上げることはできないと思われます。
政府も大学研究期間も、1985年のプラザ合意以降の日本の為替レートの変遷とバブルをよく研究しており、「日本の轍を踏むな」という解説をよく目にします。90年代初頭の日本と違うのは、財政投融資と民需の両方で、国内を健全に発展させられるテーマでお金を「有効」活用できる機会があり、政治主導で大胆な施策を実施出来る点にあります。
わたしもバブルの崩壊は今後3年の間に一旦はあると思いますが、以上の理由から、内需拡大による国内経済の安定政策が早期に軌道に乗れば、バブル崩壊の影響は限定的になると考えています。
これと前後して高付加価値を可能にする商品開発力を持つ企業が増えて行けば、コスト優位性ではなくその商品価値で売上を立てられるグローバル企業が増え、高騰する給与を支えることもできるようになります。たとえば、2009年度に世界のネットワーク機器売上高の2位となった華為科技(Huawei)のようにグローバル競争力を備えた企業が増えて行くのはまちがいありません。
なぜなら、中国国内市場にグローバル企業がぞくぞく参入して競争に晒されるため、中国国内企業はグローバル競争力を持たないと国内市場でも勝てないからです。そして、そこで磨かれた企業はグローバルでも一定の存在感を得るはずです。
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こうした成長が軌道に乗ったタイミングで人民元は交換可能な国際通貨となり、人民元レートは大きく切り上げられることになるでしょう。この時には、世界最大のマーケットと、多数のグローバル企業を持つ国になっていることになりますが、さらに多くの重要資源(石炭、鉄鉱石、希少金属)をコントロールするようになっているはずです。国内に多くの天然資源を保有しているだけでなく、この時には現在買い漁っている海外の資源を、高い人民元レートを背景に安く購入出来るようになるためです。
あと10年くらいで上記の変化が起きるだろうと思っていますが、その時日本がどのようなポジションを占めているかはまだわかりません。あと10年経つとわたしの子供達も社会に出ますので、それまでに少しでも役に立つことをしておきたいと思っていますが、考えをまとめるにはもう少し時間がかかります。
なお、中国が抱える課題である民族問題と台湾問題は、上記のシナリオに大きな影響を与える可能性がありますが、これについては、いまのところ見聞・見識を持てておらず、政治的な問題も絡むので当面はコメントしません。
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最後に、中国人のモチベーションについて書いておきます。
中国が鄧小平の改革解放路線に舵を切ったのは1978年で、まだ30年余りしかたっていません。日本は高度経済成長までに終戦から30年かかったことを思えば、中国はいまがその時期なのだと思います。
日本の高度経済成長を支えたのは、少年時代に敗戦を迎え、焼け野原からの再生を経験した、ハングリー精神を持つ方たちでした。いまの中国でも、働き盛りの40代の方たちは、文化大革命などの悲惨な時代を経て改革解放を担ってきたハングリーな方たちです。
ですから、彼らはこれから起きる多少の困難は乗り越えてしまうと思うのです。なぜなら、それよりも悲惨な経験を知っているから。我々の親の世代が乗り越えてきたのと同じように。
これらの世代を含む中国の方たちと、どのような関係を築けるかを考えて行くことも、今後の日本の成長に重要なことだと考えています。