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ALS患者高野元の日常と思考と回想

呼吸機能のリハビリテーション器具

   

ALSは原因がわかっていない疾病なので、病院に行くのは経過観察のためになります。ALSによる機能低下が引き起こす問題がいろいろ出てくるので、その対症療法を相談しています。

私は月に一回、主治医のいる近所の大学病院に見てもらっていますが、それ以外に「国立精神・神経医療研究センター病院 (以下、国立神経病院)」にも行っています。

この国立神経病院は精神疾患または神経難病専門で、ALSだけでなく筋ジストロフィーなどの難病への対応経験が豊富です。特に、リハビリ課は外来患者への対応があり(ほとんどの病院は入院患者への対応のみ)、丁寧に相談に乗ってくれます。

ALS患者にとってのリハビリ

ALSは、運動神経の変性によって、随意筋が衰えて萎縮していく病気です。筋肉が痩せて硬くなることで関節の可動域がせまくなり、また筋力が落ちていくことで、一つ一つの日常動作が各所の筋肉に負担をかけていきます。

そのため、筋肉の緊張をほぐし、関節の可動域をできるだけ維持することがリハビリの目標となります。残念ながら、筋力を回復したり壊れた運動神経を再生するのは難しいので、筋萎縮の進行を少しでも遅らせるためにやるということになります。

ある程度筋力が落ちて固くなると、本来動いていたところまで体を動かすのが難しくなります。そうなると、可動域をできるだけ広げるには、外部の手助け、特に理学療法士のお世話になることになります。

呼吸筋のリハビリ

さて、運動神経でコントロールされている筋肉で、ALS患者の生死に関わるのが呼吸筋です。

呼吸は、横隔膜を始めとする呼吸筋が動くことで、肺に空気を入れたり出したりする動作です。呼吸筋が萎縮すると、肺に入る空気の量が減っていきますから、できるだけ進行を遅らせたい。

呼吸筋やその周りの筋肉をほぐすリハビリメニューはありますが、可動域を広げるためには、肺をできるだけ膨らませる必要があります。これは手足のリハビリと違って、人の手(手技といいます)では簡単には手助けができないので、何らかの器具が必要になります。

呼吸リハビリ器具の要件

肺をふくらませるためには、肺に空気を送り込む器具があればいいわけです。ちょうど、バックバルブ・マスク (あるいはアンビュー・バッグ)というものがあります。ポンプの先にマスクが付いている、と想像してもらえればよいです。

これをそのままリハビリに使うとすると、次の点が課題となります。

  • ★ バックバルブ・マスクは、ある程度肺が膨らんだ後は空気を送り込めない(肺からの空気が逆流する)。
  • 肺をどこまで膨らませればよいのか、外部からわからない。
  • 肺にどれだけ空気が入ったのか、測定できない。
  • マスクをはずさないと息が吐けない。また、マスクを外すと測定できない。

これらをまとめると、呼吸リハビリ器具には3つの要件があることがわかります。

  • ★ 肺に空気を送り込むだけでなく、加圧(肺活量以上の送気)ができる
  • 肺活量を計測できる
  • 肺が目一杯膨らんだタイミングで息を吐ける

呼吸リハビリ器具の構成

これらの要件を満たすために、国立神経病院で試作している呼吸リハビリ器具は、次のように構成されています(名称は勝手につけています)。

  • バックバルブ・マスク(写真上部):
    肺に空気を送り込みます。
  • 呼気計測器:
    肺に送り込んだ(または吐き出した?)空気のフロー(≒肺活量)を計測します。
  • 呼吸制御バルブ(写真下部):
    バックバルブ・マスクから空気を送り込むときは閉じて、肺から呼気を吐き出す時には開くバルブです。
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バックバルブ・マスクと呼吸制御バルブ

呼吸制御バルブには、バックバルブ・マスクから空気を送り込む口1と、空気を吐き出す口2があります。口2には短いチューブを付けて、チューブの開口部を指で抑えて開閉します。

★ 口1は、肺からの空気の逆流を止めるバルブがあるので、バックバルブを押し続けることで加圧が可能となります。

指で抑えている間は、弁が閉じて口2には空気が流れないので、口1から空気が送り込まれます。指を離すと弁が開いて、口2から空気が出ていけるようになり、呼吸ができるようになります。

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使用の様子

この器具は、介助者がバックバルブ・マスクを押して空気を肺に入れていき、被検者がもう肺が目一杯膨らんだと思ったタイミングでチューブを話して息を吐くというものです。

肺や呼吸筋が柔軟であれば、通常の肺活量より多くの空気が入ります。私も最初にやった時は、自力の肺活量が5000cc程だったのに対して、この器具を使うと6000cc以上の肺活量になりました。

おわりに

この器具はいまだ実験段階ではありますが、その仕組みと効果の可能性は筋が通ったものでした。これを開発している先生は、職人さんと一緒にプロトタイピングに苦労して取り組まれているのですが、もともと製品開発を生業にしてきた私には、それも興味深い話になります。

いまは月一回の通院時しか試せないのですが、ある程度の個数が用意されて気軽に使えるようになれば、家庭で日常のリハビリで使えるようになります。医療器具としての認可が待たれます。

ALSは根本的な治療が見つかっておらず、新しい治療方法を次々に試していかないとなりません。一方で、ひとりひとりの患者の持ち時間は限られています。

患者への副作用を始めとして安全性を確認するプロセスはとても大切ですが、ALS患者にとっては時間がかかること自体がリスクです。

私は、実験であってもリスクを取って様々な治験に参加したい。

その治験が自分にいい影響をもたらしてくれればラッキーだし、そうでなかったとしても実験結果は次のアクションへと導いてくれます。そうした行動の積み重ねが、将来の患者さんの助けになり、いずれは治療法の発見につながるのだと信じています。


※ いくつか補足を追記しました。追記箇所は、文頭に★をつけています。


★ 開発者の寄本先生のリソースを追記しておきます。

 

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