人の視野と可能性を語ることの限界 〜 大阪市住民投票で思うこと

日常生活, 父からの手紙

私は神奈川県川崎市民で直接の縁はありませんが、一連の大阪都構想の議論は興味深く見てきました。その理由は大きく二つあって、

  • 将来的な日本の行政モデルとして、道州制が導入されるのが望ましいと思っており、大阪都構想はその導入になるのではないかと考えていたこと
  • 自分が住んでいる川崎市は、人口146万人の政令指定都市であって、神奈川県との2重行政問題を潜在的に抱えていること

といったものです。

私自身は、将来の可能性を広げるために、低レベル(行政機関でありながら犯罪の温床になっている)の既得権益にしがみついている組織を壊すという一点だけで大阪都構想賛成でした。

ともあれ、ここではその是非ではなく、人の視野と未来の可能性を語る限界について書いてみます。

人にはそれぞれの視野がある

人は成長や経験の度合いから、さまざまな考えを持っています。その考える範囲を「視野」と呼んでいます。

例えば、自分が住んでいる地域から出たことがない人にとっては、他県の様子はもとより、海外の様子は肌感覚として理解するのはとても難しいことです。一方、仕事や旅行など自分の体で他国を体験した人は、日本または自分が住む地域を、外国の事情と対比して考えることができます。

あるいは、海外に出かけていけるだけの生活の余裕がある人と、日々の生活で一杯一杯でそれ以外のことに意識を向けられない人の違いと言ってもいいのかもしれません。

未来の可能性も人それぞれ

健康な人であれば、「明日は今日よりなにか良いことがあるようにしたい」と無意識に考えていると思います。その時間的な視野が、今日なのか今週なのか、1か月後なのか半年後なのか、あるいは3年後なのか30年後なのか、が人によって違うだけだと思います。

「なにか良いこと」のイメージは、たいてい他者との比較で形成されていくので、先に述べた「人それぞれの視野」が時間的な視野も決めていくのだと思います。

そう考えると、その人の視野にあった未来の可能性でないと、その人は受け入れられないと考えるのが自然です。教育って大事ですね。

未来の可能性は不安の固まり

様々な経験を通じて広い視野を持つ人の多くは、30年後くらいの長期的な未来の可能性を、漠然とではあっても想像することができるでしょう。そんな人は、そこにたどり着くには目の前の作業を積み重ねながら、いま見えていない事象が発生する不安を、意思を持って乗り越えていくしかないと知っています。

一方で、身の回りの日常に忙殺されている人の視野では、30年後の可能性を想像するにしてもあまりにも現実離れしていてとても不安なはずです。将来が不安であれば、目の前に出現する不安に対処することすらもイヤですよね。意思を持って回避したいのではないでしょうか。

リーダーの役割は未来の可能性をわかりやすく見せること

事業運営であっても、行政であっても、リーダーの最も重要な役割は「未来の可能性をわかりやすく提示し、そこへ向かう意思を持たせる」ことです。政治家って、そもそもこれだけに特化した仕事と言ってもいいですよね。

この観点で今回の住民投票を捉えると、

  • 維新の主張:行政の無駄をなくして、将来の大阪につながる基礎を作りましょう。
  • それ以外の主張:大阪市がなくなると行政サービスレベルが下がります。現状維持しましょう。

であって、リーダとしての仕事ぶりが対局にあることがわかります。

今回の住民投票結果が発するメッセージ

このメッセージの対象がどんな視野を持つ人なのか整理すると、

  • 維新の主張は、広い視野で大阪を捉えて、未来の可能性を信じられる人向け
  • それ以外の主張は、日々の生活の範囲の視野で大阪を捉えて、現状を基準に考える人向け

といったところでしょうか。

数字的に拮抗したとはいえ、大阪市民の選択と、それを誘導した各党の行動は、「大阪は現状維持を目指す地域です」という強烈なメッセージを発することになりました。

個人的には、視野の狭い層の不安を煽り将来の可能性を引き下げる行動をとった政治家の罪は思いと思いますが、これが衆愚政治というやつなんだなとあらためて思いました。

企業であれば、このような行動をとった管理職には強力な指導(時には解雇も)を以って対処し、将来の可能性に近づく障害を取除こうとするのですが、その政治家を選んだのは市民であって、市民を指導することはできませんからね。

今回の結果に失望した人たちの一部は、大阪市から出て行ってしまうのかもしれません。。

それでも第3者的に期待していること

後半は政治家批判のようになりましたが、民主主義である以上、その結果責任は有権者にあります。

人の気持ちを変えるには長い時間がかかります。

今回賛成を選んだ方々が、次のチャンスが来た時に諦めずに将来の可能性につながる行動をとり、また迷っている人たちに将来の不安に立ち向かう勇気を提供できるように行動してくれるといいなと思います。

有権者のできることは、投票で繰り返し意思表示するしかないのですから。