キャリア・ストーリ (5)
Web検索事業責任者

キャリア・ストーリー

キャリアについて質問されることが増えたので、半生を振り返って記事を書くことにしました。悪いことはだんだんと忘れていくので、良い出来事や自分に都合の良い解釈が多いですが、ご笑覧下さい。

売上責任を持つ

サービス立ちあげから一年ほどは、サービス開発に専念させてもらえたこともあって「利益を出す」という感覚が希薄でした。事業開始当初は売上がなかったので、入社以来一円も売ったことのない新米課長が、実は億単位の負債を背負っていたのです。

サービス開発が一段落すれば、当然のことながら売上責任が課せられます。検索ワード連動広告バナーを商品化することからはじめました。媒体責任者として、広告営業担当者と一緒に慣れない広告代理店周りをしました。

広告代理業の方とはコミュニケーションに相当苦労しましたが、最初の半期で数千万円の売上を作り出すことができました。売れるたびに、売上目標が引き上げられていくのには閉口しましたが。。

Googleとの関係強化

自社広告商品が立ち上がるタイミングで、幸運なことに検索連動型広告AdWordsが始まりました。さらにこの市場が急速に拡大したことで、最終的には3人のチームで数十人分の人件費を賄う超優良事業へと変貌してくれました。

サービス開始3年ほどで累損を一掃して金のなる木に育ったときには、検索サービス開発に数年まじめに取り組んだことへの、神様のご褒美だと思いました。

定期的に契約条件交渉を行ない、新しいサービス企画を考えては交渉を行いました。契約当初はベンチャーらしかったGoogleも、株式上場のあたりから管理やコンプライアンスに厳しい会社へと変化し、交渉相手がMBAホルダや弁護士になって複雑化していきました。

契約交渉は、すべてGoogle本社側と英語で行う必要がありました。また、交わされる契約書は英文で数十ページにも及び、論点を抽出するだけでも一苦労でした。留学時よりも成果責任が重かった分、本当に英語力がついたのはこの時期です(それでもブロークンですが)。

事業開発を経験から学ぶ日々

事業の遂行にあたっては、アライアンスの取りまとめ・システムの開発運用・プロモーション・広告営業予実管理・チームマネジメントと、事業開発の経験を積んでいきました。

売上規模が他のサービスと1−2桁違うため、組織に浸透していた細かい売上数字を追いかけるばかりのマネジメントでは結果が出せないことに気付き始めていました。

あるとき、売上に着目するのではなく、それを生み出すシンプルな事業方程式をたてれば良いと気づきました。検索事業方程式

いまなら、リーン・スタートアップでいう「革新会計」に相当します。ここで明確にした『事業パラメータ』に集中することでチームの役割分担が明確になり、各メンバーが自ら仕事を工夫するようになってくれました。

こうなると事業責任者としての仕事は、ポータルサイトのブランドづくりになるので、半年〜1年先を見て施策を打ち込んでいかないといけないと気付くことになりました。半期ごとに目先の数字を追う経営管理方針とは時間軸が合わないので、別の管理を独自に行おうと努力しました。しかし、当時の実力では力及ばず、経営に働きかけて結果につなげることはできませんでした。

目先の数字に一喜一憂せず、組織や事業の土台をしっかり作っていくことが長期的な成長の早道である、という信念を持つに至ったのは、この時の経験によります。

ベンチャー企業とのお付き合いの中で

我々が日本で最初にGoogleと提携して検索サービスをリニューアルしたのですが、その後各社が追随してGoogleのエンジンを使うようになっていきました。

もともと自分が技術開発側にいたこともあり、日本国内から検索エンジンの技術開発の火が消えてしまったことに、一抹の後悔がありました。人が開発した技術を利用してビジネスをするのではなく、自分たちが作った技術でビジネスに挑戦したいと考えはじめていました(当時の心境をこちらに書きました)。

また、Google以外にも多数のベンチャー企業とお付き合いしました。その中で、小さくても体を張って成果を追求する姿勢に、共感している自分に気づくようになりました。また検索サービス事業はほぼ完成しており、ルーチンワークが嫌いで苦手な私は、次の事業ネタを探しつつ転職の可能性を模索し始めました。

「日本国内で技術開発していて、これからインターネット分野で成長が見込め、海外展開を視野に入れているベンチャー企業」を条件に転職先を探しました。10社ほどご紹介いただいたのちに、縁あってデジタルフォレストというベンチャー企業へ転職をすることになります。あとちょっとで40歳というタイミングでした。

キャリア・ストーリ 一覧
 (1) 大学・大学院まで
 (2) NEC中央研究所
 (3) スタンフォード大学客員研究員
 (4) 企業内転職
 (5) Web検索事業責任者
 (6) ベンチャー企業役員
 (7) 中国大連で会社設立
 (8) 人材交流マネジメント
 (9) 大企業の傘下へ・半年の小休止
 (10) 経営コンサルタントとして