ALS発症の経緯(3) 〜 2014年後半

ALS生活, 発症と療養の経緯

よく聞かれることなので、友人たちには知ってもらいたいのと、体の不調からALSではないかと不安を持っている方がこちらへたどり着くこともあると思うので、僕のALS発症の経緯を書いておくことにします。

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2014.8:決死のシンガポール出張

2014年に入ってから、健康回復を優先して海外出張をしていなかったのですが 、8月にどうしても参加したかったシンガポールでのイベントに行くことにしました。

とはいえ、脚の具合は悪くなる一方でした。妻からは、今まで避けてきた杖を使うのが条件となり、杖を購入して準備をしました。しかし、当日成田エクスプレスの中で、いつになく不安が膨らんでしまい、最後まで渡航をやめようか迷った状態でした。

幸いなことに現地では周囲の人に助けられながら、なんとか日程をこなしました。しかし、日本語での会話すら問題があるのに、英語でのディスカッションをしなければならず、これも大変でした。

無事に成田についた時は、心からホッとしましたが、同時に「もう一人旅はできないな」と観念せざるを得ませんでした。

2014.9:立て続けに路上で転ぶ

シンガポール行きの前に、主治医と相談して9月末に検査入院するということを決めていました。なかなか決心がつかず、日程を先送りしようとするので、主治医もイライラしているのがわかりました。

9月に入ると、歩こうとしても右脚の一歩がでず、電車を降りた駅のホーム上で固まってしまう、という現象が起きました。右足を前に出したいのに、動かない。このまま体重移動すると、また倒れてしまうので、そこで静止するしかありません。

そのころは、しゃがんでお尻をついてしまうと、手がかりがないと自力で立ち上がれないようになっていたので、しゃがむわけにも行きません。また、大きな声が出ないので、周囲に助けを求めることもできません。

深呼吸していったん全身の緊張を解いてから、ようやく足が動いてくれました。

外出時は相当慎重に行動していましたが、あるとき6車線道路の横断歩道を渡ろうとして足がすくんで倒れてしまい、通りがかった人たちに助けてもらうことがありました。

その翌日には、駅のホームで躓いて転んで右手をついてしまいました。中指と小指が手の甲側に折れ曲がっていたので、これは骨折したかと思いましたが、幸いなことにひどい打撲で済みました。

再度の検査入院

日程を決めていた検査入院でしたが、直前までキャンセルしようか悩んでいました。しかし、直前に上述のように連日路上で転んでしまったことで、心が折れてしまい、ようやく検査入院する気持ちになりました。

検査項目としては次のようなものです(検査目的には、誤解あるかもしれません)。

  • MRI: 脳や筋肉、側索(脊髄内の中枢神経の通り道)異常な箇所がないか
  • CT: 骨に異常な箇所がないか
  • 神経伝導速度検査: 神経を流れる電気信号のパタンに異常はないか
  • 筋電図検査: 筋肉の電位パタンに異常はないか

MRIとCTには、全く問題はありません。これで、腫瘍などの疾患の可能性が消えます。しかし、神経伝導速度検査と筋電図検査で、多少の異常がみられました。

ALSは原因がわかっていないので、さまざまな病気の可能性を順番に排除していくと、最後に残るのがALSになるという診断になります。病気は理学ではありますが、まだまだ工学的アプローチをせざるを得ない分野があるということですね。

リハビリ科の知見

入院中に、リハビリ科で体の各機能の維持について説明を受けました。動かしにくい機能を、億劫がって使わないとさらに機能低下が進むということでした。

3つの分野があって、

  • 作業療法士(OT):日常動作の回復を支援
  • 理学療法士(PT):衰えた機能の回復を支援
  • 言語聴覚士(ST):言語機能の回復を支援

という分担になっていることを知りました。

STの先生からは、ALSの症状として軟口蓋(のどちんこ)周りの筋力がおちて垂れ下がってくる、ということを教えてもらいました。これが原因で鼻声になったわけです。

告知後の対応

重篤になる病気なので、セカンド・オピニオンは取るべきと考えて、手続きを進めました。

また、ALSは厚生労働省が定める特定疾患のひとつで、一定の公的支援があるので、その手続を進めていきました。

リハビリ・介護・特定疾患補助など、これまで縁がなかったことなので知識が乏しく、ひとつずつ確認して対応してきています。できるだけ新鮮な目で見て、好奇心を保ちたいと思っています。
photo credit: jodimarr via photopin cc