[読書] 「チャイナ・ナイン」を読みました 〜前編

読書メモ

遠藤誉さんの「チャイナ・ナイン」を読みました。

今年の2-3月に中国ニュースを賑わせた、薄煕来の失脚を予言した本ということで読んでみたのですが、現在の中国を知り今後の中国を予測するためには必読書の一つと思いましたので、読書記録を残しておきます。長くなったので、前編・後編にわけて書きます。

文化大革命以降の現代中国は鄧小平の改革開放路線から始まるわけですが、

  • 鄧小平が「先に富めるものから富め」といったのは広く知られているが、実際には「先富、后共富」(先の富めるものから富め、そのあとでみんなが共に富むのだ)と言っていた。
  • 天安門事件で趙紫陽が失脚したあと、上海に地盤を持つ江沢民を国家主席として「先富」の役割を担わせたが、次につづく「共富」の役割を胡錦濤に託したと思われる。
  • 江沢民は先富の役割を果たしたが、共富への舵取りをせず、自分の地盤である上海閥が大きく利権を得るように政治の舵取りをしたことで、社会的なモラルが崩壊した。
  • 共富へと舵取りをした胡錦濤は、数多くの社会問題に取り組んできたが、道半ばで任期を迎える。

ということで、鄧小平 – 江沢民 – 胡錦濤の関係を軸にして複雑な政治模様を解説したのが本書といってもよいでしょう。

本書の中身については後編に譲るとして、まず私は筆者の中国に対する強い愛情を感じました。マスコミの偏った報道に惑わされず、中国を正面から受け止めて理解し、対等な関係を築くことを望んでいると思います。

私が普段から考えていることが、いくつかの点ではっきりしたので、それについても書いておきます。

  • 胡錦濤・温家宝体制の10年で「先富」江沢民派の影響力をようやく排除し、「共富」につながる「和諧社会・科学的発展」をスローガンとした国家経営の準備が整いつつある。
  • 2000年代は江沢民時代の反日教育の影響が続いたが、2010年代は胡錦濤時代の路線変更の影響で反日色は薄れていくだろう。
  • 内政が充実し、内陸部の生活水準が向上するにつれて国内政治は安定に向かうだろう。
  • 少数民族問題は依然としてアキレス腱だが、経済と内政の安定によって改善できると考えているかもしれない。(本書でもこの問題への言及はほとんどありません)。

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さて、本書を手に取るきっかけとなった薄煕来ですが、3月末にすべての権力を剥奪されて、共産党の中央規律検査委員会の取り調べを受けていますので、おそらく共産党員の資格も剥奪されて復権の目はなくなるでしょう。これは、今後の裁判でも守られないことを意味します。

彼は、私もお世話になった大連市の市長として、90年代に外資の呼び込みに成功しています。街の外観を良くして経済発展の基礎を築いた点は、多くの友人達が評価していました。しかし、重慶市長になった頃から、あまり話題に上らなくなりました。また、表面的な成果ばかりを追求する市政府の方針に対する不満も時々耳にしましたので、国民は彼を冷静に見ていたのでしょう。

一方、いつになったら上海閥との争いに勝つのだろうか?と眺めていた胡錦濤ですが、この薄煕来を手がかりに反対勢力を一掃し、盤石な院政を引いたように見えます。

そうなると習近平と胡錦濤の関係が気になるのですが、習近平は太子党ではあっても上海閥とは距離があります。本書を読むと分かるように、彼の父親は文化大革命で投獄され辛酸を舐めています。胡錦濤も父親を文化大革命で失っています。共産党体制堅持の基本方針のもとで、個人崇拝の危険性を知り、社会の混乱を強く嫌っていると考えたいところです。

また、習近平らは次期のチャイナ・ナイン入りを目論む薄煕来の扱いに困っていたと思われ、それを一掃した胡錦濤には一定の敬意を払うことになるように思います。

胡錦濤はまだ70歳ですから、あと10年以上は影響力を持ち続けるでしょう。個人的な願望も入っていますが、もしかすると、段階的な経済発展の舵取りをもって歴史に刻まれた鄧小平と同様に、胡錦濤は段階的な民主化の舵取りによって歴史に残るかもしれませんね。

読書メモ

Posted by gen