津本陽著「龍馬」読了

読書メモ

津本陽さんの小説「龍馬」全5巻をようやく読了しました。
津本さんの小説は、信長を書いた「下天は夢か」を読んで以来ですが、感じたことを書いてみます。
「下天は夢か」を読んだときには、当時の方言を再現した信長や藤吉郎(秀吉)の口語体が、情景を思い描かせるような臨場感につながり、爽快な読後感がありました。
この「龍馬」も、龍馬の子供時代から千葉道場での修行時代(一、青雲編)、各藩の論客との交流を通じて自分の道を決めた土佐脱藩(二、脱藩編)、さらに勝海舟との師弟関係が軸となる神戸海軍操練所時代(三、海軍編)までは、津本作品らしく、方言そのままの文体が小気味よく、読み進めることができました。
しかし、薩長同盟に向けて志士としての活動に入る(四、薩長編)あたりから、大政奉還にむけて船中八策を起案し近江屋にて暗殺される最後(五、流星編)までは、手紙や文献、他の著作からの引用が多く、だんだんと読みづらくなってしまい、五巻を読み終わるのに手間取ってしまいました。
一~三巻は、限られた資料に基づいてさまざまな想像をおりまぜ、小説らしい自由度をもって、人間龍馬の魅力を軸にした臨場感あふれる描写になっています。実に、坂本龍馬の土佐弁だけでなく、勝海舟の軽妙なべらんめえ口調も聞いてみたいものだと感じさせられるものです。
一方、四~五巻は、重要な歴史の転換点である明治維新を描くため、ときおり独自の解釈も加えつつ、様々な資料を引用しつつ事実の積み重ねに徹している感がありました。言い換えると、坂本龍馬を軸とした歴史研究の手引きみたいな感じですね。
今回の読後感としては、龍馬の青春時代や明治維新に向けた志士としての活動よりも、各藩の業務委託や出資を受けて貿易事業を進めていくシーンが印象的です。今で言えば、まさにベンチャー企業が投資を募り、未開拓の事業を起こして行く姿は、当時の時代背景を考えると本当にすごいことだと思えます。
一方で、いろは丸事件(海援隊が借りた船が、操船ミスで衝突事故を起こし沈没)では過激な交渉をしており、津本さんは文献も引用しつつ、龍馬と土佐藩の行為は黒に近いグレーであるように書いています。司馬遼太郎著「竜馬がゆく」では、この事件は万国公法を持ち出して解決を図った龍馬の交渉力に焦点を当てているようですが、津本版「龍馬」では、海援隊が事業運営に極めて困窮していたため、なりふり構わず詐欺まがいの行動をしていたことも記されています。
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ともあれ坂本龍馬は、今年のNHK大河ドラマの主人公です。アジアが欧米帝国列強に次々に侵略され、日本にも迫りくる中で、土佐郷士という草の根の出身でありながら、自由な貿易を夢見る実業家の視野を持ち、国体をどうすべきか考え活動した人物です。
現在の日本でも、こうした意識を持った活動が必要だと強く感じます。それは、政治家や実業家だけの世界ではなく、まさにひとりひとりの「青雲の志」の醸成なんだと思います。私はもう若者というには微妙な年齢ですが、龍馬ファンを自認するソフトバンクの孫さんのtwitter(龍馬伝直前のtweetは秀逸!)などを見ると、いやいやまだまだ志は持ち続けるぞと思って勇気づけられます。
「坂の上の雲」とあわせて、国体の転換と国際社会での地位獲得と、連続する近代史のトピックを映像化するNHKの意図も、「青雲の志」を応援するところにあるのかもしれませんね。

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読書メモ

Posted by gen