気管切開と誤嚥防止手術を受けました(5) ~在宅療養への移行
この5月12日から6月16日までの一か月余り、気管切開と誤嚥防止手術を受けるために入院して来ました。
今回の手術は、ALS患者にとっての大きなイベントである気管切開を行うものだったのと、いくつかのトピックスを含むものになったので、複数回に分けて詳細に書き残しておきます。
気管切開と誤嚥防止手術を受けました(1) ~食べ続けるために早期の気管切開を決断
気管切開と誤嚥防止手術を受けました(2) ~術後の経過と誤嚥防止術の成果
気管切開と誤嚥防止手術を受けました(3) ~気管切開と自動痰吸引器アモレの導入
気管切開と誤嚥防止手術を受けました(4) ~入院時の課題と対応
退院へ
快適に過ごした入院生活でしたが、1ヵ月もたつとそろそろ自宅に戻りたくなります。今回の入院はたくさんのタスクがありました。
- 気管切開と誤嚥防止手術
- カニューレ装着と吸引手技の習得
- 自動痰吸引器アモレの使い方習得
- 胃ろう交換
順調にタスクを終えて、6月下旬に退院となりました。
詰まりとの戦い
さて、家のほうが落ち着くとはいえ、困ったときにいつでも飛んできてくれる看護師さんたちはもういません。これまでも退院後の何週間は、いろいろ体調のコントロールに苦労してきましたが、今回もそうでした。一言でいうと「詰まりとの戦い」で、気管切開したことによる苦労も早々に体験しました。
カニューレが詰まる(その1)
今回気管切開し、痰の自動吸引機アモレをつけるためにカニューレをつけたのは、以前書いた通りです。
私は入院中から痰が固く、看護師にしょっちゅう痰吸引してもらっていました。で、家でだれが吸引するかといえば妻です。もちろん訪問看護師や痰吸引できるヘルパーさんがいるときはお願いするのですが、現状は一日のうち3‐4時間にすぎません。
事件は、退院して一週間ほどで起きました。早朝に痰が詰まり妻に吸引してもらったのですが、その時にカニューレに固い痰が詰まり、吸引しても取れない。横隔膜がピクリとも動かず、チアノーゼ一歩手前でした。冷静な私は意識を失うまでにあと1分は持つと計算し、文字盤で「カニューレ外せ」と伝え、病院で医師の装着を見ていた妻はエイヤで外して、すんでのところでことなきを得ました。
本来カニューレの装着・脱着は医師の立ち合いが必要ですが、緊急時にそんなこと言ってられませんからね。自発呼吸に問題ないとはいえ、気管切開するということは相応のリスクがあると再認識しました。ちなみにその後は、青くなった訪問看護師の指導で妻の痰吸引技術が上達し、また痰を柔らかくする薬を服用することで、平穏に過ごせています。
カニューレが詰まる(その2)
わたしは自動痰吸引器アモレを使っていますが、そのために「コーケンダブルサクションカニューレ」というものを使っています。このカニューレは、カニューレ口から痰を吸い出すチューブがついているのが特徴です。
さて、呼吸が止まってしまうくらいに固い痰です。この、痰を吸い出すチューブが詰まらないわけがありません。詰まるとどうなるか。アモレが頑張って痰吸引するのですが、吸えない。アモレが動かないと、痰がどんどんたまって吸引が必要になります。アモレを導入する意味がなくなってしまいます。
この問題に対処するには、チューブに詰まった痰を取り除かないとなりません。アモレの吸引力を超えた圧力で引くしかありませんが、これがなかなか難しい。引いてだめなら押してみるしかありませんが、それで対処できることがわかりました。ただし、手順が少々複雑でリスクがある方法なので、詳細はここには書かないでおきます。
この問題もいまでは、痰を柔らかくする薬の処方で改善しています。
便が詰まる
もう一つの詰まりは、ずばり便秘です。50年を超える人生で、この病気になるまで便秘なんてなったことがありませんでした。しかし、筋力の低下でいきむ力が弱り、さらに立ち上がって動けないので、なかなかでない。で何日か出ないと固くなって詰まるのです。
自宅では何とかなっていたのですが、入院すると食事も変わるし運動量も減るので、便秘になってしまうのです。
退院して自宅の環境に戻ると自然に改善されていましたが、今回は一向に改善せず苦労しましたが、便を柔らかくする薬を処方してもらって改善しました。
自宅での食事
今回の手術は呼吸するためではなく、口から食べ続けるために行ないました。食べるといっても、さすがに普通の食事は無理でミキサー食を食べています。特別なものではなく、家族が食べるものをミキサーしているだけです。ご飯はおかゆにして、とろろを混ぜています。手術前もこの形態だったので、現状維持といってよいでしょう。
果たしてビールは飲めるのか?
大きく改善されたのは、水分が口からとれるようになったことです。水分は誤嚥しやすく、手術前はコップ一杯のお茶を飲み切れなくなっていました。今では、好きなように飲んでいます。
手術の相談をするときに主治医に伝えたのは「もう一度ビールが飲みたい」でした。もちろん端的に要望を伝えるための表現ですが、本音でもありました。
お茶やジュースをそれなりに飲めるようになったので、そろそろいいかとビール飲んでみました。一度口の中に含んでから飲み込むので、炭酸はきついし苦みも強くなるので、渋い顔をして飲みました。
それでも泡がのどを通過する感触はビールでした。
残念なことに350ml缶の半分を飲むのが精いっぱい。2年ぶりのアルコールで、すぐに酔っぱらってしまいました。これからもう少し飲めるようになるかな。
(このシリーズおしまい)