【香川講演】社会人としてこれから大切になること 〜 後編

創発生活, 父からの手紙, 起業・経営

‎前編の話を受けて、組織の成長について考えてみます。

3. 学習による組織の成長

自分が主体的に仕事に取り組んだときに、組織にどのような影響を与えられるか考えてみましょう。人が独りでできることは限られていますが、人とつながり協力することで得られる効果について自覚しておくことが大切です。逆に言うと、その効果を疎かにすると自分が所属する組織の能力を毀損することにもなってしまうのです。

組織が成長できるかどうかは、学習能力にかかっています。学習を個人の義務として捉える組織は大きく成長できません。なぜなら、個人の成長に依存した組織は足し算でしか成長しないからです。相互に協力して学習する能力を持つと、個人の成長が掛け算で組織の成長に影響するようになります。

以下では、その効果を簡易モデルで説明し、相互学習の進め方と、その前提となる個人の自立について述べたいと思います。

3.1 小さな努力の過不足が組織へもたらす効果

16人のチームで仕事をすることを考えてみます。一人ひとりが常に全員に影響を及ぼすものとして、毎月の成果は後々に確実に影響するものとして、簡単にモデル化してみます。

  • 一ヶ月のチームの成果 = Aさんの成果% × Bさんの成果% × ・・ × Pさんの成果%
  • 一年のチームの成果 = 1ヶ月目の成果% × 2ヶ月目の成果 × ・・ × 12ヶ月目の成果

一人ひとりの成長が周囲の成長を促し、その毎月の成長が翌月の成長の基盤になるという考え方です。組織への影響が複利であり、毎月の成長も複利と考えるということですね。

さて、この方程式に具体的な数字を入れてみましょう。

  • 毎月全員が101%の成果を出すとすると、101%^16 = 116%
  • それが一年続くとすると、116%^12 = 600%

年間で600%、つまり6倍の能力を獲得できることになります。これが、勢いのついたベンチャー企業が急成長する理由です。

成長は日々のモチベーションを確実に上げてくれます。自分が楽しいと周りも楽しい → 周りが楽しいと毎日が楽しい → 毎日が楽しいと人生が楽しい、という好循環が生まれます。こういった組織で働けるといいですね。一年後に自分の能力が劇的に向上しているという体験ができると思います。

一方、ちょっとだけブレーキがかかっている状況を考えてみます。

  • 毎月全員が99%の成果を出すとすると、99%^16 = 86%
  • それが一年続くとすると、86%^12 = 16%

これが、ルールに縛られて硬直化した組織が衰退する理由です。

ルールばっかり押し付けられて誰もリスクをとらない → ちょっとくらいサボってもいいかな → 隣もサボってるからぼくも/わたしも、という悪循環がうまれます。

毎日ちょっとずつ楽をすると成長が止まります。組織のみんなが楽をしていて成長していないと、ある意味で自分も安心です。しかし世間は進化しているので、相対的に退化してしまっているということを常に意識しないといけません。

3.2 相互学習の効果

では、101%効果を得るためにはどのように仕事をすればよいのでしょうか。個人が101%になるだけではなく、相互に影響をおよぼすようにしないと複利効果は生まれません。このためには、教えることと教わることの両方を意識する必要があります。

  • 自分が知ったことや身につけたことを、自分の周囲の人達に教えます。これによって一層知識が自分に定着しますし、自分に自信がつきます。もちろん、周囲の人もそれによってスキルアップへの興味や手がかりを得ることができます。
  • 自分が苦手なことを、周囲の人達から教わります。これによって、相手への敬意と感謝が生まれます。もちろん、自分自身がスキルアップする手がかりを得ることができます。

相互に敬意を持つことができれば、健全な協力関係が築けるようになりますね。こうなると、組織の成果が足し算から掛け算へ進化し、複利効果がうまれるのです。

3.3 相互学習の前提は個人の自立

さて、相互に敬意を持てるだけの経験やスキルを獲得するにはどうしたらいいのでしょうか。

これは先に述べた、「自分の強みを磨く」ために必要な幅広い経験と、強みの自覚、そして研鑽しかありません。別に大それたスキルや強みを求める必要はありません。前日・前月・前年から何かを進化させればいいのです。他人とベンチマークするのではなく、以前の自分とベンチマークするのです

他人とベンチマークしないためには、差分の大きさを気にするのではなく、相手から謙虚に学ぶ姿勢で接するのです。また、自分とのベンチマークを小さくても確実に進めるためには、自己の成長が組織貢献と知ることも大切でしょう。

ここで成長のスピードという問題を考えてみます。マイペースで進歩することが大切ですが、目標との乖離があっては意味がありません。自分の目標は何なのか、それが組織目標に果たす役割は何なのかを意識して、マイペースのペースをコントロールできるようになるといいですね。無理して最初にギアを上げると、途中で息切れしてしまいます。それよりは、目標に向かうスピードを意識しながら毎日トレーニングすることで、自然にスピードは上がって行く効果を狙ったほうが良いですね。

4. 経営ビジョンとWHY

組織のゴールと自分のゴール、そしてマイペースということに触れました。自分が努力して成長する、ということを前提に組織をみてみると、従来型のトップダウン型の運営では無理があります。トップダウン型の組織は、まず目標・ゴールがあって、それを達成するために必要なタスクが計画に分解されて、各個人に分配されます。このため、計画に対するストレッチが成長余地となります。これは個人のモチベーションや成長の範囲が限定されることを意味します。

組織のゴールと個人のゴールが一致していれば、この方法でも大きな問題はないのです。しかし現在は市場が大きく変化しており、課題設定が現場担当者に振られてボトムアップ型の運営にならざるをえない時代です。こうしたボトムアップ型の運営に必要なことは何なのか、もう少し考えてみましょう。

これまでの会社は、トップダウンに指示が降りてきて、その指示にしたがって管理されていました。これは、高度経済成長時代のように、右肩上がりで成長する社会では、効率を追求するために必要なことでした。前提として、社会の経済的な成長と、それによる個人の経済的な充足がモチベーションの源だったと言えます。

しかし、社会が十分に成長し、個人が必要な物は自由に手に入る時代になりました。これ以上の発展は経済的な成長ではなく、精神的な成長と個人が精神的に充足する社会になるのだと思います。こういう社会は、様々な立場の人がお互いの視点を大切にしてフラットに議論できるのではないでしょうか。そうなると、会社のあり方はコミュニティに近づいていくことになり、その結果として同じビジョンを持つ組織や人同士が協力する形になるのだと思います。

こうしたコミュニティ型の会社運営がうまくいくための条件は、ビジョンの共有、情報の公開、個の自立、にあると考えます。

4.1 ビジョンの共有

ビジョンとは未来にたどり着きたい場所や成し遂げたいことのイメージですが、現時点では明確な姿にならずに曖昧なままであることが多いです。なぜなら、現在はまだ不確定な様相が多すぎて最終的な形はぼんやりとしてしまうからです。ビジョンはイメージも大切ですが、それに加えて、「なぜそれをやるのか、なぜそうしたいのか」というストーリーを共有することが大切です。

TEDの人気講演のもう一つに、サイモン・シネックさんによる「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」というものがあります。

ここで説明されているのが、whyを中心におき、その外側にHowを、更にその外側にWhatを配置する「ゴールデン・サークル」というとてもシンプルな思考ツールです。

議論のなかでは、いろんなレベルで意見が出ます。自分が具体的にやりたいことはたいていWhatの議論であり、ここが違うと意見が対立してしまいます。しかし、目指す方向=Whyや取りうる手段=Howが共通だという認識が出来れば、Whatレベルの意見対立は優先順位ぎめの問題ということがわかり、Whyに早く近づけるのはどちらのWhatなのか?で意思決定ができます。

また、このビデオでも延べられている通り、ユーザはWhatの良し悪しよりは、Whyに共感できるかを重視するようになっています。チームメンバがビジョンを共有できていれば、誰もが自分の役割の中でブレること無くWhyを説明できることになりますね。

4.2 情報の公開

ビジョンが共有できたとすると、今現在の位置と将来の方向がわからないと、どの道を進むか決められません。なので、いま自分たちがどういう局面に置かれていて、どういう能力を持っているのかを知らないと、進むべき方向やスピードが決められませんね。

こういう見えない状況では、つねに方向修正とスピード調整をして行かないと、崖から落ちてしまいます。修正・調整には数多くの情報が必要ですし、できるだけ進みたい方向に沿った情報が欲しいわけです。そうなると、チームが協力して自律的に情報を探す必要があり、このためには自分たちが得たあらゆる情報を公開するのが早道です。

4.3 個の自立

あらゆる情報を公開するとなると、取捨選択や自分なりの解釈が必要になります。

自分がやりたいこととできることは最初は小さくてもよいのです。むりに組織の目標合わせて背伸びをする必要はありません。ただし、ビジョンへの道筋が考えられており、それによって自分が成長することが必要です。これが個の自立です。

小さくても自分で考えて何かを形にすることができれば、周囲がそれを見て活かすことを考え始めます。そうすれば組織が前にすすめることになります。これが未来をつくる一歩になるのです。

5. おわりに

随分と長い話になりましたが、言いたかったことをまとめると下記の4点になります。

  • 心の声を大切にする
  • 主体的に生きる
  • 人との関わりを大切にする
  • 仲間とビジョンを追求する

すでに、社会を取り巻く環境は変化の時代に入りました。トレンドを読んでも、行動しているうちに変わってしまいます。それよりはトレンドを作り出す側に回ったほうが面白いと思いませんか。別に大きなトレンドを生み出す必要はないのです。友人数人と生み出すトレンドであっても、世界中でそういう動きが起きているのですから、いつのまにか大きな流れの中で活動していることになると思いますよ。

一人ひとりが主体的に行きられる社会になることを願って、皆さん一人一人が活躍することを願っています。