[読書] 米倉誠一郎著「創発的破壊」

読書メモ

 

起業の決心をして、社名(創発計画)を心のなかで内定していたときに本屋で出会って、即買した本です。

著者である米倉誠一郎さんは、一橋大学イノベーション研究センター教授で、大学教授の枠にとらわれずに活動されていて著名です。雑誌の記事はなんども目にしましたが、本を読むのははじめてです。

本書の内容は、イノベーションに関する経営理論でもなく、ビジネススクールが使うケーススタディ集でもありません。副題に「未来を作るイノベーション」とありますが、すでに起きている、小さくても自発的な変化を集めた事例集の形になっています。

ざっと本書の内容を紹介します。


まず、戦後日本のパラダイムチェンジは、太平洋戦争へとつながる戦前日本の課題を、

  • 資源がなければ輸入する
  • 島国は各地にアクセスポートを持つ最適ロケーション
  • 過剰人口は大きなマーケットと豊かな労働力

と捉え直したところに始まる、とパラダイムチェンジの重要性に触れます(序章)。

続いて、これまでの代表的なイノベーションは既存の概念や習慣を破壊する「創造的破壊」でしたが、既存の技術や既存のマーケットをより深く追求する継続的な破壊、すなわち「創発的破壊」も新しいイノベーションの形であると定義します(第1章)。

つぎに、新しい発想で社会経済活動に付加価値をつけたイノベーションの例として、旭川動物園(行動展示、冬でも開園)、マイクロファイナンス・インターナショナル(安い手数料での海外送金)、日本理化学工業(障害者の生涯雇用)、を紹介しています。いずれも個人の思いから始まって、経済的に持続可能なものになっています。(第2章)

小さな改善活動が引き起こすイノベーションが社会制度や習慣も変えた例として、バングラディシュのグラミン銀行を取り上げています。グラミン銀行をはじめた、ムハマド・ユヌス博士は、2006年にノーベル平和賞を受賞しています。貧困という社会問題を、常識にとらわれない方法で金融技術と結びつけて解決する、ソーシャル・イノベーションを生みだせるという例をあげています。(第3章)

このあと、高校生の社会スタディを例に、優秀な若者に社会問題を認識させてモチベーションを喚起させること(第4章)、幾つかの例を挙げて世界における日本の地位の低下を直視すること(第5章)を説いています。ここでは、日本が世界で活躍するために、金融・製造・外交の3つの視点で議論が進みます。

これらの視点では、経済問題の解決やソリューション型発想など、ひろく世界の事例に学べること(第6章)、また明治維新と大隈重信を例に、歴史の事例にも学べること(第7章)、を示しています。

最後に、現状のパラダイムチェンジとして、

  • 脱原発・脱炭素社会におけるエネルギー開発のリーダーへ
  • これまでの東京一極集中から分権化社会へ
  • 世界で進む少子高齢化社会の先進的解決国へ

を挙げ、それぞれの実現可能性を説明してあります。


 

いろいろな話題が寄せ集まっているようにも読めるので、私も何度か繰り返して目を通してしまったのですが、本書のエッセンスは、「個人の思いから発する小さな変化の積み重ねが、社会を変える大きな原動力になり、国のパラダイムチェンジを実現する」ということなんだと理解しました。

戦後社会で着々と敷かれてきたレールは今後消失していくのだから、一人ひとりが自分で考えて行動することが大切、ということですね。

最近は、日本ひいては先進国が一定の完成度に到達して「イノベーションのジレンマ」に陥っているんだなと考えていたので、そこから破壊的イノベーションによって離脱するのではなく、現状から連続性のある「創発的破壊」イノベーションで離脱しよう、というメッセージとして捉えました。

こういうことなら、ちいさな個人でも貢献のチャンスがあります。思いを形にすることを、地道にやっていこうと思います。

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<追記>

このブログを書いた直後に、著者の米倉教授と、本書にも登場する税所篤快さんの対談イベントが企画されていたので参加してきました。お二人のお人柄と、良い師弟関係が感じられる楽しい企画でした。いくつかのメッセージがありましたが、印象的だったのは次の二つ。

  • ビジョンに根拠はいらない
  • カリスマ的リーダ待望論は敗北主義

前者は、ケネディ大統領が宇宙開発のビジョンを打ち出したことを例に出していました。アポロが月面に到達するのは1969年ですが、ケネディは1963年に暗殺されています。ビジョンに感動した若者がこぞってNASAに入り形にしたという点こそが大切、というお話でした。

後者は、現在の日本を引き合いに出し、トップが良ければ日本が変わるなんて幻想で、プロフェッショナルが周囲を変えていくことの積み重ねが大切、というお話でした。

また、「転んだことのある人は、転んだ人を笑わない」という喩え話を、されていました。私は転んだことのある人になりたいと思います。

 

読書メモ

Posted by gen