慶大がALS治療薬候補を発見
昨日3/21の日経新聞夕刊で下記ニュースが流れました。
慶大、ALS治療薬候補を発見 患者のiPS細胞使う ※ 電子版では有料記事です
慶応義塾大の岡野栄之教授らは、筋肉が衰えるALS(筋萎縮性側索硬化症)患者のiPS細胞を使って治療薬につながる複数の物質を見つけた。いずれもすでに別の病気の治療薬として使われているという。企業と協力して早期実用化を目指す。日本再生医療学会で20日、詳細を公表する。
この記事は日本語記述が曖昧で意味を何通りにも解釈できるので、元の論文をあたりたいところですが、期待を持てる成果のように見えます。
(ご注意) 本記事は自分の病気をできるだけ理解したいと調査する過程で書いていますので、専門レベルの理解は不十分で不正確です。より正確な情報を得たい方は、専門家の意見をご確認ください。 |
ALSの基本的な構造
ALSは、運動を司る神経が変性・脱落して、脳の指令が筋肉に届かなくなる病気です。症例は細かく分類が可能で多岐にわたっており、それぞれ統計的に相関が高いと考えられる現象も違っています。
これがあればALSだと特定できる生理学的な特徴も定まっていないので、病気というよりは症候群と捉えるべきものです。
これまで教わったり調べたりしたことから、ALSは次の3つに分けて考えるのが良いようです。
(1) 上位運動ニューロンが変成・脱落する
体を動かすには、大脳と小脳からの指令が必要です。複数の筋肉を同時に動かすには、その時系列パターンが必要(いわゆるスポーツで言う運動神経はこのことと思われる)で、それは運動経験が小脳に蓄積されていきます。
ここから脊髄まで伸びてつながり、全身に運動指令を出すのが、上位運動ニューロンです。
これが変成して機能しなくなるので、大脳で体を動かそうと思っても、おそらく運動の時系列パターンが欠落して脊髄に伝わることになるようです。
(2) 下位運動ニューロンが変成・脱落する
脊髄を伝わった運動指令は、各所の筋肉につながる下位運動ニューロンを通じて筋肉を動かします。
これらの神経には側索と樹状突起がありますが(→参考)、神経細胞の変性によってこの2つが脱落してしまうそうです。筋肉へつながる回路自体が失われていくので、運動指令が脊髄を通っても、肝心の筋肉へ伝わらないということになるようです。
(3) 筋肉が痩せて硬くなっていく
下位運動ニューロンは、特に指令がなくても筋肉を刺激して動かしているそうです。家電の待機電力みたいなものですね。
下位運動ニューロンが失われていくと、この刺激自体がなくなっていきます。おそらくこれによって血行が悪くなり、筋肉細胞の新陳代謝ができなくなります。
今回の研究が影響すると思われる範囲
今回の慶応大学の発表を新聞記事から読み取るに、
- ニューロンの樹状突起の成長を妨げる因子を、患者のiPS細胞を使って見つけた。
- その対策となる治療薬は、他の病理用に作成したものがすでに存在する
ということのようです。失われた上位・下位運動ニューロンの再生に効果を期待できます。初期の患者には、進行を抑える効果がありそうですし、重篤になった患者にも部分的でも機能回復の可能性が出てくるのかもしれません。
おわりに
ALSは、150年以上前に発見されてから、いまだに原因が特定できてはいませんが、この10年ほどの間に新しい知見が次々に得られているようです。症候群と捉えれば、その症候の一つ一つに対する治療法が見つかるだけでも大きな進歩です。
そのような知見がある程度集まった時に、共通する上位概念が見つかったり発見されることで、一挙に問題が解決されると言うのは、自然科学の歴史でよくあることです。
iPS細胞の研究が進み、生命や細胞の発生原理がわかるような時が来たら、それが根本解決の時なのかなと漠然と感じています。