分身ロボットカフェDAWN βでウェイターをやってみました

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11/27-12/7の2週間、分身ロボットカフェなるものがオープンし、私もそこでウェイターをさせてもらいました。

アニメーション映画の「イブの時間」のカフェをまねたセットを組み、「当店内では人間とロボットの区別しません」の看板も設置してありました。

もしかすると世間の多くの人は「ロボットやAIというバズワードに引っ掛けた、はやりもの企画」ととらえているかもしれないと思い、障害者の視点でこの試みを紹介したいと思います。

ウェイターへのお誘い

吉藤オリィさんに出会ったのは、ALSとの告知を受けてから数か月が過ぎた、2015年の夏ごろでした。友人の紹介で、オフィスに遊びに行ったのです。

その後、自宅に遊びに来てくれていろいろ話す中で、「いま興味を持っていることは何ですか?」と聞かれたので、「ソフトバンクのペッパー君に、自分の代わりに身体表現をしてもらいたい」と答えた記憶があります。

オリヒメはまだ小さいままでしたので、自分の代わりをしてもらう発想はなかったのですが、何度か試すうちに身体表現にとどまらないアバターとして価値があることがわかってきました。そのあたりのことを、友人の湯川鶴章さんが記事に書いています。

オリィさんはその後も継続して、新しいアイデアが形になるたびに自宅に遊びに来てくれて、意見を言わせてくれる機会を提供してくれました。

オリヒメDもその一つで、今年の夏前にプロトタイプを触らせてもらいました。でかいオリヒメだけだと、世の中に出すときにインパクトが足りないなぁと内心思っていたところに、カフェをやるとのアナウンスが出てきました。

これは程よく無茶な提案を世間にすることになるので、面白い!と思いました。その後すぐに、ウェイターやりませんか?との打診があり、それはもう、二つ返事で引き受けました。

全国から外出が難しい障害者の応募があり、私も10人のパイロットの一人に選んでもらいました。

10人のパイロット

Orihime-Dでウェイター体験

会期中に、5日延べ9時間シフトに入りましたが、操作の様子を簡単に紹介しておきます。

自宅にいる私からは、操作用のコンソールソフトウェア経由で、会場やお客様の様子がわかるようになっています。そのコンソールで、頭と腕を動かし、テーブルに移動し、会話をすることができるようになっています。

テーブルの移動は、あらかじめ床に貼ったラインをトレースすることで自動で動くので、操作の負担がありませんでした。

私は気管切開をして声を失っているので、他のパイロットのようにマイクに話しかけることができません。この問題は、あらかじめ登録されている接客のセリフを適宜選択して、音声合成で読み上げる機能を使うことで解消されました。

シフトは1時間単位で、その間に二つのテーブルを担当して、注文を取りサーブをします。 最初はルーチンをこなすので精一杯でしたが、慣れてくると余裕が出てきました。

余裕を埋めるだけの会話のバリエーションが不足してしまうこともあり、ご質問いただいたのに回答できないこともありました。ここは改善のアイデアが必要なところですね。

ALS関係の友人では川口有美子さん、武藤正胤さん、酒井ひとみさん、永井誠さんがいらして、お会いできました。

自民党の石破茂さんをはじめ政治家の方、乙武さん、ペッパー君生みの親として知られるGrooveX代表の林要さん、などもいらしていました。

何よりうれしかったのは、たくさんの友人が仕事の合間に立ち寄ってくれたことです。当日チケットを取るために昼前に並んでくれた友人もいました。日本財団ビルに仕事に来たら偶然見かけたという友人も複数いまして、外に出るって大事だなと思いました。相手にはオリヒメの姿しか見えないのに不思議なものです。

たまたま仕事で訪れていたN君と久しぶりの再会。
「ロボット越しにばったり会うのは、人類的に早いほう?!」

コミュニティから生まれるイノベーション

さて、そんなオリヒメカフェですが、事前のリハーサルでは不具合続出で、正直なところ頭の中に「間に合わないアラーム」が鳴り響きました。ハードウェアとソフトウェアが組み合わさると問題解決が格段に難しくなりますから。

それでも、ぎりぎりのところでサービスイン。当初は頭と腕は動かないままでしたが、日を追うごとに動くようになり、空いた時間を埋めてくれる貴重なコミュニケーション手段となりました。身体表現ができると、やはりお客様やギャラリーの反応が違いました。

手を振れるようになりました。

最終日には、コーヒーカップをつかんだり、バンザイしたりしてました。エンジニアの皆さんは、あまり寝られなかったのではないかと思います。

この企画を中心となって進めたのは、もちろんオリィ研究所の皆さんですが、そのほかにも多数のインターンや社外スタッフの皆さんの協力があってプロジェクトが進行していきました。

バックヤードの一コマ。男ばっかり(笑)

オリヒメには名札がついて、パイロットの簡単なプロフィールがすぐにわかるようになっていましたが、取りまとめたのは高校生(!)インターンです。パイロットとコミュニケーションをとりシフトを取りまとめてくれたのも、社外スタッフです。

もちろんパイロット自身も協力者です。機会を与えてもらい感謝しかないのですが、見方を変えれば貴重なファーストユーザーです。私自身もテスターとしてだけでなく、取材にも応じました。仕事柄、過去に何度も広報・取材対応をした経験がありますから、お安い御用でした。

今回の試みの意義

この試みは単なるロボットの活用事例ではありません。

神経難病患者や重度障害者が、積極的に社会参加する近未来を出現させたことに本質的な意味があります。

現在は、かわいそうで守るべき人たちという認識のもとに、医療制度・介護制度・障害者支援制度が作られています。こうした支援制度のおかげで生きられるし、制度に基づいて雇用されるヘルパーさんの介助のおかげで外出を伴う社会参加も可能になるわけで、とてもありがたいことなのです。

しかし、就労についてはほとんど考慮されていません。その一例として、報酬が伴う作業(営業提案も含まれる)をする際はヘルパーさんの費用は自己負担になります。

「自宅での作業であれば就労の介助は可能」との解釈もあるようなので、今回ヘルパーさんの介助の下で、遠隔のロボットを操作して就労したことを問われることはないと思いたいところです。

ほとんどの人は、重度障害者は働けないと思い込んでいます。その思い込みが社会通念となり、多くの障害者が自分も働けないんだと思い込まされています。しかし、働けないのは効率を最大限追求した社会システムに、我々ができる仕事がないだけなんだと、私は考えています。

テクノロジーというか技術革新は、いつの時代も人の能力を拡張して社会を進化させてきました。この10年で働き方は効率重視から、働き手の心の安定に重きを置くようになりつつあります。この変化の延長にあるさまざまな試みの一つである、この分身ロボットカフェがきっかけとなって、重度障害者の就労が議論されるようになってもらいたいものです。

最終日の記念写真