クローズドなGoogle、オープンなFacebook

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ここのところ、いろいろな知り合いと夕食を兼ねて飲んでいることが多いです。とてもありがたいことです。ある友人たちと食事をしているときに、アメリカのサービスの話になりました。

GoogleとFacebookの違いを、出自となった大学の特徴と照らし合わせて見たコメントをしたら以外とウケたので、ちょっとメモに残しておくことにします。ひとことで言うと、「クローズドなGoogle、オープンなFacebook」となります。世間一般のイメージとは異なるかもしれませんが、ネット業界の方はピンと来るのではないでしょうか。

Googleについては、創業前のスタンフォード大学の研究プロジェクトの時からNASDAQに上場した後まで、すぐそばでかなり深く見ることができる状態にあったので(注1)、創業当時の様子はその辺の本よりも詳しかったりします。

一方Facebookについては先日見た映画「ソーシャルネットワーク」以上の知識・情報があまりないのですが、下記のような分析をした次第です。

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(1) アイデアの出自

Googleは、とにかくリンクを集めたら何か面白いことになるかも?という学生(Google創業者の二人)のアイデアに、スタンフォードのファカルティ(教授、教員)が理論的なバックグラウンド構築を支援(注2)をしてできた大学の研究開発プロジェクトが発端です。特にPageRankの理論と実装は、当時の技術レベルからすると画期的だったと言えます。

アメリカの多くの大学の中でも、スタンフォード大学のコンピュータサイエンス学科は理論と実践がバランスよく鍛えられ、このために多くのベンチャー企業が生まれているのは有名です。ここでは、技術的な先進性が差別化と参入障壁を作り、ビジネスの成功要因となっていると思います。

一方Facebookは、研究プロジェクトではなくネットサービスとして企画されています。つまり、Googleのような先端技術の研究開発からではなく、ハーバード大学に代表されるアイビーリーグにて人脈を充実させて学生生活をより良いものにする、というユーザーニーズに基づいて企画されています。

ハーバード大学は、スタンフォード大学に劣らない名門大学ですが、ビジネス分野により多くの人材を輩出しています。もちろんコンピュータサイエンス学科もとても優秀ですが、理論が優先する傾向にあります。ここでは、ビジネスアイデアとエコシステムづくりが、ビジネスの成功要因となっていると思います。

(2) 成長課程

この2社に共通しているのは、本格展開するためにはシリコンバレーで開発を行い、技術的イノベーションを追求しているところですね。

ネットサービスを大きく成長させるためには、資金と人がカギになります。シリコンバレーには、ベンチャーの育成に詳しい投資家が多数いて投資機会を常に探していますし、自分の腕一本で勝負しているITプロフェッショナルが多数いて、常に創造的な環境を求めています。こうしたシリコンバレーの環境が、2社ともに最適だったと言えるでしょう。

Googleは、その圧倒的な検索結果の品質によってユーザを集めて囲い込み、これによって検索広告ビジネスを成功に導きました。

一方Facebookは、サービスをプラットフォーム化してオープンにすることで、アプリベンダーも巻き込んでユーザを増やしています。

(3) 技術のオープン性

大規模なトラフィックやユーザデータを裁くためには、かなりしっかりした技術的なバックグラウンドが必要になります。

2000年代前半は、この分野をGoogleがリードしてきました。世界中のユーザの大量のアクセスを裁くために必要な、大規模分散システム技術のイノベーションをいち早く実現し、これをビジネス上の大きな差別化ポイントにしてきました(注3)。

この仕組みは論文の形で発表され、コンピュータサイエンスの発展に大きな貢献を果たしました。しかし、Google以外のエンジニアが利用出来るオープンソース・プロダクトとしての実装は、Googleではなく他の組織の人が進めています。

一方、Facebookが出現したのは2004年ですから、大規模分散システムの知見がだんだんとオープンになっている時期で、それらを利用することができたはずです。こうして独自技術を蓄積していきますが、Facebookはその成果の多くをオープンソースとして多数公開しています(注4)。

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こうしてみると、両社の競争力の源泉が、Googleは検索を中心とした大規模分散システムの技術であり、Facebookはユーザデータ(ソーシャルグラフ)を用いたエコシステムにあることがわかります。

競争力の源泉が技術にあると、その世界に囲い込み(クローズド)をしなければならないので、常に最先端技術の追求が必要です。Googleがその思想をユーザに押し付けてくるのは、クローズドな世界を前提としていることが原因でしょう。また、エンジニアは世界最高の技術を実現しても、これをなかなか世間に公表できない、というジレンマを抱えることになります。

競争力の源泉がエコシステムにあると、その世界を広げないとならないので、変化に対応し続けなければなりません。外界の変化をコントロールするためには、自ら発信しないとなりませんから、Facebookは自然とオープンになっていきます。また、多様なニーズを迅速に取り入れるには、差別化要因となる技術成果であっても公開していくことになります。

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スマートな人や、できるエンジニアのモチベーションを支える要素には、

1) 難しい問題を美しく解くこと

2) 多くの人に自分のアイデアを知って/使ってもらえること

3) その結果として多くのフィードバックを得て、さらに良いものにすること

の3段階あると考えますが、3)をオープンにできなかったGoogleは、人材の流出も招いてしまったわけです。

ところで、GoogleはAndroidではオープン戦略をとり、その世界を大きく広げていますが、技術で差別化していることに変わりありません。Androidビジネスも、当初は検索でマネタイズするモデルだったと思いますが(これもAdWordsへの囲い込みですね)、アプリビジネスのエコシステム化が急務となっています。

エコシステムは、ユーザやベンダが自然に受け入れられる形でコントロールしないとなりませんから、これまで囲い込み型でやってきたGoogleには少々荷が重いかもしれません。

また、オープンにエコシステムを作ってきたFacebookにも、数年後には新しい技術イノベーションが必要になるでしょう。その時に、どんな技術をどんなエコシステムに組み上げるかを、そろそろ種が生まれる時期なのだと思います。

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(注1) 創業前の1997-98年に、Visiting Scientistとしてスタンフォード大学に在籍した。また、2000-2004年の間に、ビジネスパートナとしてお付き合いさせていただいた。

(注2) データベース分野の大家であるウルマン教授(セルゲイ・ブリンの指導教官)ほか豪華メンバで、超大規模化するインターネット上のデータ処理・分析に対して、多くの成果を出してきた。また、HCI (Human Computer Interaction) の大家であるウィノグラッド教授(ラリー・ペイジの指導教官)は、ランキング・アルゴリズムが検索結果の満足度にどう影響するかについて深い洞察を与えた。

(注3) Google以前には、大規模システムの構築には複数のCPUを積んだ超高速サーバを数台〜数百台並べて構成していた。サーバが高価なため、一台で数百万円、モノによっては億単位となり、まともなビジネスプランを書くのが難しかった。

これに対してGoogleは、廉価なサーバ(数万円)を大量(数千〜数百万台)規模に並べ、計算処理をできるだけ簡略化して多数のサーバに分割し、さらに耐障害性を高める仕組みを考案し実現した。「エラー忘却」の概念を取り入れ、サービス品質と開発・運用コストのバランス点を見出したところが素晴らしい。

(注4) Cassandraなど、大規模分散システム構築に必要な基盤技術を多数オープンソースとして公開している。